最終年度である本年度は最初に設定した3つの言語使用グループにおける日本語使用を含む言語使用の特徴を比較・分析した。その結果、(1)単言語から2言語使用中心になった外国人居住者の場合は、日本語の規範や習得に対する意識が強く、ホスト言語コミュニティに向かう言語管理を行う傾向があることが分かった。それに対し、単言語から多言語使用環境へ、また多言語環境から日本でも多言語使用環境を維持する言語使用グループの場合、滞在が長くなるにつれて、日本語習得を意識するよりは、自分らしい日本語の使用、つまり、多言語使用者としての言語環境を維持するための言語管理に向かっていることが分かった。 (2)また本年度の研究では、異なる言語使用グループの接触場面における実際の日本語使用も分析しているが、A-1の2言語中心の言語使用グループの場合、発話文の種類において他のA-2とB-2の多言語使用グループに比べ、中途終了文の使用が少なく、発話文の種類にバリエーションが見られた。また発話開始表現の使用においても他の多言語使用グループに比べ、使用頻度が高く、その表現形式にもバリエーションが見られた。さらに、A-1の場合、言語使用における逸脱を否定的に評価しており、ホスト言語コミュニティに向かう管理の意識が強い傾向にあることが分かった。一方で、多言語使用グループの場合、文末の処理がパターン化している傾向があり、中でもB-2の多言語使用者の場合は、文末においてとくに特定の表現形式を過剰に使用する傾向も見られた。また言い淀みや発話調整のためのフィラーの使用も2言語中心の言語使用者に比べ、2倍以上多く使用されていることが分かった。このような結果から多言語使用グループの場合、日本語習得においてはホスト言語コミュニティに向かう管理をする一方で、自分らしい日本語規範に基づく日本語使用の管理も平行して行っていることが分かった。
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