外国人留学生で非漢字日本語学習者30人、中国人15人、韓国10人及び日本人19人を対象に漢字正誤判断時の自発的空書行動の有無、正答率、反応時間、眼球測定をした。同時にアンケートを行い漢字学習に対する信念、態度を調べた。非漢字日本語学習者22人は1年の期間をおいて経時的変化を調べた。刺激漢字は5種類で、曖昧漢字(初級日本語学習者の間違いをもとにしている)、偽漢字(部首と旁の組み合わせが存在しない)、ハングル文字、真漢字、部首倒置漢字(部首の位置が前後、又は左右倒置されている)であった。部首倒置漢字は漢字学習が進むにつれ、正答率が上り、漢字学習進捗の指標になることが示された。中国人、日本人、韓国人には5種類の刺激とも空書き行動の有無による正答率に統計的な差はなかった。経時的変化を追跡した非漢字日本語学習者では5人の初級学習者では空書き行動が見られず、4種類の漢字様刺激の正答率は有意に上がらなかった。17人初中級の学習者のうち、10人に空書き行動が見られず、7人に空書き行動が見られた。中級学習者の眼球運動では、1停留点での停留時間400ミリ秒を越える停留点が多数あり、脳内で記憶している漢字字形と提示されている刺激字形を照合していると思われるが、空書き行動無の学習者は曖昧漢字と偽漢字の正答率が空書き行動有の学習者より低かった。部首倒置漢字の正答率は行動無では80%前後に留まっていたが、空書き有では100%近くに上昇した。空書き行動が漢字の細かな内部構造の分析に役立っていることを示唆している。自発的空書き行動は漢字学習時の書字行動の蓄積を反映していると考えられ、書字の漢字学習における重要性を示している。眼球運動は個人差が大きく、日本語学習者の漢字学習に伴う眼球運動の観察は経時的手法を採る必要が示唆された。
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