本研究は英語を母語とする学習者がどのように日本語の音声を認識しているかを「表記」という先行研究になかった観点を加えて考察した。 平成29年度は前年度に収集した中級学習者を対象にしたデータの分析を引き続き行った。データ収集は単語和訳による表記(=産出)調査、続いてディクテーションによる知覚調査を行った。データ分析の結果、初級学習者のディクテーションの正答率(57%)の方が和訳(50%)を上回っており、知覚の習得は生成に先行するという先行研究と一致した。また、各対象語の正答率の順位は知覚と産出の両テストでほぼ一致しており、ひらがな表記も初級学習者が「聞こえた通り」に書いている様子が伺え、発音同様、表記も知覚と密接な関係があることが明らかになった。中級の結果は知覚と産出の両テストとも有意に向上し、正答率は75%前後と両テストでほぼ同じとなったが、正答率があまり向上しなかった語もあり、語頭の長音と拗音の組み合わせや語末の長音など先行研究でも困難と報告されている音は習得が進まないことが分かった。中級になると漢字の使用が進み、ひらがなで表記していた時よりも拍への意識が下がることも一因ではないかと考えられる。この結果は第10回日本語実用言語学国際会議(ICPLJ10)にて発表した。 また、英語母語話者との結果を比較することにより、母語の文字種がどのように影響があるか検討するため、韓国語話者を対象にデータ収集を行った。韓国語話者のデータに関しては現在分析中である。 4年間の研究の結果として、表記、聴取、発音の三技能は強く関連し合っており、それぞれ独立して指導するよりも、同時に習得を促した方が効果があるという仮説にたどり着いた。この成果を引き継ぎ、さらに実践的な領域へとその成果を拡げることを目指し、次年度からも助成(課題番号18K00727)を得て研究を継続していく予定である。
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