本研究では、神戸大学で構築された「アジア圏英語学習者コーパス」に収録されている日本人英語学習者と英語母語話者による英語論述文を対象として、文章の結束性に関わる「単語連鎖の反復使用」と「主格人称代名詞・指示代名詞の使用」を量的かつ質的に分析・比較した。さらに、日本人英語学習者による英語論述文に対しては、英文ライティング能力の違いによる前述の語彙使用の差異にも着目した。 日本人英語学習者は、英語母語話者と比べると、ライティング課題の指示文に含まれる単語連鎖と1人称代名詞(主格)の反復使用が著しく多いことがわかった。日本人英語学習者の英文ライティング能力が高くなると、1人称代名詞 "we" と 2人称代名詞 "you"(主格)の使用が減少し、3人称代名詞 "they" と文頭での指示代名詞 "this" の使用が増加する傾向が見出された。一方、ライティング課題の指示文に含まれる単語連鎖の使用比率は、英文ライティング能力に関わらず、ほぼ同じであった。 これらの語彙使用の特徴から、日本人英語学習者に対する英文ライティング指導において留意すべき2つの点が明らかになった。まず、ライティング課題の指示文に含まれる単語連鎖を繰り返して再利用(借用)することを回避できるように他の表現で言い換えができる力をつける指導が求められる。さらに、文章の「読み手」と「書き手」の関係性を効果的に構築するための人称代名詞・指示代名詞の使用法についての指導も求められる。今後の英文ライティング指導に向けて、最終年度には、主格人称代名詞と文頭に使用される指示代名詞 "this" が、日本人英語学習者と英語母語話者で使用法がどのように異なるのかを発見的に学べる可視化ツールを開発した。
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