研究課題/領域番号 |
26370707
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
若林 茂則 中央大学, 文学部, 教授 (80291962)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 第二言語習得 / 日本語 / 英語 / 語彙 / 動詞 / 埋め込み節 / 補文標識 |
研究実績の概要 |
ト節を補部に取る日本語動詞の分類を進め、ト節の持つ統語的な性質と、ト節と主文の関係について考察した。以下の3点では、日英語間に違いがあり、日本語母語話者の英語習得に影響を及ぼす可能性がある。 1)ト節を補部に取る日本語の動詞は、発言・伝達動詞(例、言う、伝える)や評価・批判動詞(例、批判する、評価する、論じる)、内容に対する話者の心的・知的活動を表わす動詞(例、理解する、感じる)がある。対応する英語動詞は、that節を補部に取るとは限らない。2)英語のthat節が状態叙述に隣接して理由を表す場合(例 I am glad that he has gone.)that節は理由を表す。日本語のト節は同様の用法はない(例 *彼が行ってしまったと私は嬉しい。)。3)一方、ト節は一般に、付帯状況を表す副詞節とみなすことができ(鎌田 2000)、動作動詞などとも共起できる(例 行ってくるぞと彼は出かけた。) 上の3つのうち1)に焦点を当て、that節と動詞の共起関係についての知識と、一般的な英語熟達度の関係を見るために、文法性判断タスクおよびOxford Placement Testを用いたパイロット実験を行った。その結果、熟達度の高い学習者のほうが、非文を非文と判断できることが明らかになった。この結果は、間接否定証拠の役割という側面、あるいは、動詞の用法を基盤とした構文習得という側面の2つの側面から説明できると考えられる。実際の言語使用において正文や非文を産出することと、「正文である」「非文である」という判断を下すことの、認知的処理面での共通点と相違点に留意しつつ、文法性判断タスクおよびコーパスデータを用いて研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、2015年度に本実験を終了する予定であったが、データ収集は現在も進行中である。 理由は2つある。一つは、日本語と英語の対応関係についての考察を深めるにつれ、日本語のト節と英語のthat節の違いが予想外に広範囲にわたることが明らかになってきたため、2014年度から5年度にかけて、データ収集計画を変更したことである。新計画では「ヲ格の名詞句を補部に取る場合」「ト節を補部に取る場合」「ノ節+ヲ格を補部に取る場合」の3つの観点から、日本語動詞を中心に据え、この3種類を基にマテリアルを作成する予定とした。一方、2015年度に文法理論に関する研究を進めた結果、これらの3用法を実験に含めると、マテリアルが膨大になり、また、研究の焦点が絞り切れない懸念が強まった。このため、2015年度の後半に、再び、本研究の本来のリサーチクエスチョンに立ち返り、ト節とthat節を中心にマテリアルを組み直し、文法性判断タスクと熟達度測定のためのプレースメントテストを用いて、実験を行った。今後は、すでに実施している実験の被験者を増やすともに、これとは別に入手している学習者コーパスを用いて、言語使用の側面からも考察を深める予定である。 もう1点の理由は、被験者に対するインフォームドコンセントに関する倫理委員会での手続きのためである。研究者が所属する大学での倫理審査に関して、2015年度に制度が整ったため、その制度を活用して、本研究の内容を審査してもらい無事合格となった。その後、母語話者のデータを取るため、オーストラリア国立大学(ANU)での審査を行うために、ANU所属の研究者の助けを借りて申請を行うための準備を進めているが、この手続きに予想以上に時間がかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は、申請時の予定通り、文法性判断タスクを用いた実験を行い、同時にOsford Placement Testによる英語熟達度測定を行った。その結果、言語習得が進むにつれて、非文に対する文法性判断が正しくなることが明らかになっている。2016年度は、同じタスクを統計的に処理可能な数の母語話者に対して行い、実験上の統制群を作ると同時に、熟達度の高い被験者を対象に、より多くのデータを集め、データの信頼性を高める予定である。そのために、2015年度に打ち合わせのために訪問したオーストラリア国立大学を訪問し、なるべく早くデータ収集に関する倫理審査を通過して、実際のデータ収集を行う。不可能な場合は、英国の大学でのデータ収集や本務校へ留学中の英語母語話者からのデータ収集も視野に入れている。 また、that節の使用に関して、学習者コーパスをデータベースとして使用することによって、実際の使用に見られる正用/誤用についても、観察を行う。
<主な予定> 4月から9月にかけては、文献研究のまとめおよび先行研究のレビューを行うと同時に、コーパス研究を行う。9月には、本務校で環太平洋第二言語研究フォーラム(PacSLRF)2016が開催されるため、そこでの情報収集に努める。10月から1月にはレビューに関する論文の章を仕上げると同時に、コーパスデータのまとめを行う。2月から3月に最終的な実験を行って、研究のまとめを行いたい。年度内の論文完成は難しいため、2017年度までの研究延期を視野に入れつつ、着実に研究を進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年度中に終了する予定であった実験のマテリアル作成が、2015年度にずれ込んだため、2015年度は当初よりも規模の小さな実験しか行うことができなかった。そのため、被験者に対する謝礼のほか、データ処理のためのアルバイト代(人件費)等を使用できず、次年度使用となっている。また、海外の大学でデータ収集を行う予定であったが、本務校での倫理委員会が、当初、本申請者が予想していたような形では機能せず、2015年度後半に、当初の予定とは異なる、新しくできた倫理委員会で審査してもらうことになったため、海外の大学での実験実施が不可能となり、実験実施のための費用については、次年度使用となっている。そのほか、進行中の研究を発表し、情報収集を行うために出席する予定であった学会への参加も見送ることとなり、この費用に関しても次年度使用となっている。
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次年度使用額の使用計画 |
4月から9月にかけては、文献研究のまとめおよび先行研究のレビューを行うと同時に、コーパス研究を行う。また、実験マテリアルを完成し、日本人英語学習者からデータを収集する。いずれの作業においても、学生アルバイトをリサーチアシスタントとして雇用する予定である。2月から3月に最終的な実験を行って、研究のまとめを行う計画であるため、この時期に、複数回にわたり、海外の大学を訪問して、実験を行う予定である。その際、アシスタントとして大学院生を同行させ、院生に対する現場教育という側面にも配慮する。さらに、海外の大学でのデータ収集の際には、実験参加者のみならず、当該大学に対する謝礼等も支払う必要がある。2月3月にはデータ収集および分析を精力的に行い、年度内には研究成果発表の準備が十分に終了しているようにしたいと考えており、そのためのRA雇用のための人件費が必要である。
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