研究実績の概要 |
2015年度までに日本語動詞の分類を進め、ト節の持つ統語的な性質と、ト節と主文の関係について考察した。1)ト節を補部に取る日本語の動詞は、発言・伝達動詞(例、言う)や評価・批判動詞(例、批判する)、内容に対する話者の心的・知的活動を表わす動詞(例、理解する)がある。対応する英語動詞は、that節を補部に取るとは限らない。2)英語のthat節が状態叙述に隣接して理由を表す場合(例 I am glad that he has gone.)that節は理由を表す。日本語のト節は同様の用法はない(例 *彼が行ってしまったと私は嬉しい)。3)一方、ト節は一般に、付帯状況を表す副詞節とみなすことができ(鎌田 2000)、動作動詞などとも共起できる(例 行ってくるぞと彼は出かけた。)以上の3点では、日英語間に違いがある。2016年度には、生成文法の枠組みでの研究(例 中島2016)を参考にし、また、分散形態論での研究(嶋村2017)を参考にしながら、ト節の性質を明らかにすべく、研究を進めた。 実証的なデータに基づく研究については、不定詞及び動名詞、および、小節と補文標識句の動詞句補部としての使用・判断データを基に理論的考察を行い、新たな2つの原理を提案した(Wakabayashi, Hokari, & Duenas, 2016; Wakabayashi, Hokari, Haniu, Fujimoto, & Kimura, 2016)。また、動詞句補部の意味について、完結性を題材に、補部名詞句の機能範疇の習得・使用が進むにつれて母語の影響が明らかになることを示した(Kimura & Wakabayashi, 2017)。いずれからも動詞句補部に係る文法知識について新たな面が明らかになったが、これらから埋込節の習得についていかなる予測が立つかについては、現在、考察を進めているところである。
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次年度使用額の使用計画 |
9月までに日本でのデータ収集を終え、11月に渡英して母語話者からのデータ収集を終える計画である。必要に応じて、12月から1月にかけて、再度データ収集を行う。被験者に対する謝礼150,000円(1,500円×100人分)データ収集は、9月までに60人分、11月までに40人分のデータを収集する。データ収集のための旅費217,198円(イギリス5泊6日)
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