研究課題/領域番号 |
26370709
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
西田 晴美 東京農業大学, 生物産業学部, 准教授 (10556054)
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研究分担者 |
後藤 広太郎 東京農業大学, 生物産業学部, 准教授 (30579917)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 音読 / リーディング・プロセス / 統語解析 / チャンク / 質的研究 / プロソディ |
研究実績の概要 |
26年度に、流暢な読み手は、語彙・チャンク・統語構造についてどの程度の知識と運用力を持ち、それをどのように使って英文を読んでいるのかに関する調査を実施し、複雑な構造の文でも内容を把握するに足る十分な語彙力と統語構造の知識を持ち、かつこれを内在化して読解に活用していることがわかった。また、上級学習者は、英文の内容を自動的に理解できるようになるために音読を実践していたという回答が、インタビューから得られた。27年度は、さらに多くの上級学習者に対し、どのように音読学習を行ってきたかについて質問紙による調査を実施した。第二言語習得過程において、上級学習者は、言語知識をインプットするときではなく、インプットした知識を運用力に変えるための手段として音読を用いていた。インプットをインテイクとして内在化するためには、インプットの処理過程を繰り返し経験する必要があるが、音読はこの手段として効果的に働くことが示唆された。 そこで音読の効用を読解力習得に活用するため、音読を取り入れた授業を行い、読解力の変化を調べた。音読を行う群と行わない群を設定して半期間授業を実施し、理解度の変化を観察したところ、音読を実施した場合は読解力が伸張したが、実施しなかった場合にはあまり伸びが見られなかった。読解処理過程では、黙読時でも認識した語の音声化が行われている。これが正しいプロソディで行われると、イントネーションやポーズといったプロソディは内容理解と密接な関係を持っていることから、意味把握を促進する。そこで、音読実践における音声指導の効果を調べるため、音読時にプロソディを指導する群と指導しない群を設定して半期間授業を実施し、影響を比較した。その結果、プロソディ指導は読解力伸張を促し、音読が読解処理過程を効率化することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的として設定した3つの目的における達成度を検証すると、1)「音読による知識の内在化、及び読解力の変化に関わるプロセスの解明」に関しては、以下のことが明らかになった。音読は、語彙・チャンク・統語構造を内在化して読解力向上を促進するために有効に働くことが示された。知識を内在化して高い読解力を保持している学習者に対する調査により、インプットした知識を運用するときに音読を活用していることが明らかとなった。 2)「発音指導が音読パフォーマンスと読解力に及ぼす影響とその効果的な実践方法」に関する実証実験を実施し、音読実践時に、リズム・イントネーションなどのプロソディ指導を行う実験群と、これらの指導を行わない統制群の読解力を比較したところ、実験群に伸張が見られた。また、実験群は英文の意味のまとまりであるチャンクを認識する力が有意に伸びており、これはチャンクの認識と密接な関係を持つイントネーションの習得が大きな影響を与えたと考えられる。音読による音声指導の効果が実証されたと言えよう。 3)「英語習得に果たす音読の役割と指導・学習における活用方法」に関しては、上級学習に対し、どのように音読学習を行ってきたかについて調査を実施した。上級学習者は、言語知識をインプットするときではなく、インプットした知識を運用力に変えるための手段として音読を用いていた。インプットをインテイクとして内在化するためには、インプットの処理過程を繰り返し経験する必要があるが、音読はこの手段として効果的に働くことが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的の3)「英語習得に果たす音読の役割と指導・学習における活用方法」を解明するために行った調査によって、上級学習者は、自身の英語学習履歴の中で音読を行っていたことがわかった。これに対して中級学習者は、音読を英語学習にごく1部取り入れているものの、あまり実践していなかった。この事から、流暢な読み手になるには音読の活用が有益であると考えられ、個人の学習では音読をどのように行えばよいのか、また教育へはどのように応用すればよいのかを解明することが今後の課題となる。 平成26・27年度中に行った音読実験、及び継続して行っている音読実験から得られる知見に基づき、語彙・チャンク・統語構造などの知識の内在化と読解力の向上に効果を示す音読方法を考案する。音読はインプットした知識を運用力に変える手段として用いることによって、言語知識の内在化へとつながることが明らかになったため、次はその効果的な実践方法の発見が、学習者の英語力向上に対する貢献のために必要である。その方法を継続中の実験を踏まえて考案する。 現在、長期的な音読の実践による実験を行っており、学習者の音読パフォーマンス・読解力の変化プロセスを、インタビュー・ジャーナル・音読の録音・発話プロトコル・読解テスト・脳活性化状態などのデータに基づいて分析・考察する。読解力の変化を測定すると共に、学習者が音読をどのように行ったら、いつ頃から読解の運用力がどのように変わっていくのかについて、インタビューとジャーナルによる調査を行う。加えて音読時における学習者の脳の血流量を調べ、その活性状態から音読がいかに自動化しているかを調査し、知識の内在化及び読解力の変化を考察する際の脳科学的な根拠とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は英語熟達度が異なる学習者による音読の音声分析を実施したため、当初予定していた、学習者が語彙・チャンク・統語構造などの知識をどの程度内在化しているかを調べる実験を平成28年度に変更した。このため平成27年度に心理分析ソフト購入用として予定していた金額が、次年度使用額として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
心理分析ソフトSuper Lab購入のために、使用を計画している。
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