研究課題/領域番号 |
26370711
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
川崎 貴子 法政大学, 文学部, 教授 (90308114)
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研究分担者 |
Matthews John 中央大学, 文学部, 教授 (80436906)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 第二言語習得 / 音声知覚 / 音韻習得 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、本研究の目的の1つである、低次音声処理で知覚される様々な音響手がかりがどのように高次の音韻カテゴリーに結びついていくのかを明らかにするため、26年度末より行っていた大学生の留学による音韻カテゴリー構築の調査の分析をさらに進めた。 日本語に存在しない音素の中でも、音素カテゴリーの構築のしやすさに違いはあるのかどうか、実験結果の分析を行った。音韻習得が進んでいると考えられる学習者群で、低次レベルでの音響手がかりの利用抑制が進んでいるとの結果が得られた。これは、音韻カテゴリーの習得と音響手がかり利用の抑制が関連していることを支持するものである。この結果は、9月に千葉で行われた、日本認知科学会にて発表した。 母語にない音素を知覚する際に、その置かれている母音環境、すなわち後続母音が何かにより、音響手がかりの利用のされ方に違いが見られた。その母音環境による知覚の違いを英語中級者と上級者のグループで比較した場合、英語上級者のグループにおいては現れ方に違いが見られた。分析結果の詳細は、5月にアメリカのソルトレイクシティーにて行われる、Acoustical Society of America にてポスター発表することが決まっている。 また、27年度後半より、日本語母語話者による音素カテゴリーの構築がどのように進むのかの調査を進めるため、さらに高度な習得レベルにある、海外長期在住者を対象に知覚実験を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
音素カテゴリーの構築については、さらに、多種の摩擦音を持つ中国語母語話者を対象にも実験を行い、実験を実施しているところである。当初、中国からインターネットを通じて実験に参加してもらう予定であったが、中国から実験を行うサーバーへのアクセスに問題があり、実行できなかった。よって、日本に在住する中国語母語話者に対面で実験参加をお願いしている。この結果が得られれば、歯茎摩擦音の種類が少ない日本語と比較し、中国語母語話者の英語の摩擦音知覚では、音響的手がかりの差はどのように評価されるのか、日本語母語話者の結果との比較を行う。 また、長期間の海外滞在経験を持つ日本語母語話者を被験者として、英語摩擦音の知覚実験を現在実行中である。これにより、3段階の英語学習者の知覚を比較することができ、習得の道筋を調査することができる。 一方、メタ言語学的知識の役割についての実験は予定よりも遅れている。現在、主にこれまでの実験に使用していたMillisecond によるInquisit では研究機関のセキュリティでブロックされることが多く、学生にウェブを通して複数セッションを受けてもらうことが困難であったためである。
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今後の研究の推進方策 |
現在、主にこれまでの実験に使用していたMillisecond によるInquisit では研究機関のセキュリティでブロックされることが多く、学生にウェブを通して複数セッションを受けてもらうことが困難であった。この問題についての対策としては、Paradigm という実験ソフトを使用し、iPhone のアプリケーションにて実行可能な実験を構築しているところである。 これにより、メタ言語的知識の習得への影響の調査を今年度前半に実行に移す予定である。 また、中国語話者のデータは日本在住者に対面で受けていただく形でさらに進めていく予定である。こちらは7月までにデータの収集を終え、分析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
明示的知識が音韻カテゴリーの形成にどう影響するのかを調査する実験を構築し、その構築、および被験者への謝礼、そしてその結果の学会発表の費用を平成26年度に見込んでいたが、Millisecond 社のサーバーを通じての実験では、サーバーのセキュリティや通信の負荷の問題から、行えないとの判断に至った。よって、インターネットを通しての実験という形態は変更しないまま、Paradigm というソフトウェアにて iPhoneでの実験を行えるよう、実験計画を変更した。よって、平成26年度に使用する予定であった予算を平成27年度に使用したいと考える。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度はParadigm にて明示的知識を与え、弁別タスクを行ってもらう実験を構築し、被験者にはiPhone にて実験に参加してもらう予定である。この実験は数週間にわたって参加をお願いしなければならず、また被験者には通信費の負担がかかることも考えられる。よって、多めの被験者への謝礼を見込んでいる。また、Paradigm はWindows のソフトウェアであるため、実験構築、発表、実験実施に使用するラップトップのWindows PCを一台、購入する。平成27年度に行った研究成果を発表するための海外出張を1件(マシューズ)、そして平成28年度、現在実行中の実験結果を発表するための学会出張を1件、予定している。前半に行う実験結果が出たのち、音声を人工的に作成し、追加実験を行う予定である。その場合には、MATLAB (ソフトウェア)を購入し、Straightでの音声変換・合成を行うことを予定している。
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