研究実績の概要 |
本年度は選択的注意を上げることで、L2音声の知覚の精度が上がるのかどうか、調査を行った。弁別対象となるカテゴリーが音声提示前に分かるように、選択肢を事前提示した群と、事後提示した群との間で、正答率の違いを比較した。本年度の実験では日本語母語話者にとって知覚が困難な英語の流音 (l vs. r)と摩擦音(f vs. θ vs. s)を対象とし、選択的注意を喚起し、誘導することにより、知覚成績が向上するのかどうかを調査した。日本語母語話者を対象とした実験では、選択肢の呈示タイミングに加え、知覚対象となるターゲット語が表れる文中のポジションが、正答率に与える影響も調査した。文のポジションにより、選択的注意の高まりが変わるのではないかと考えたためである。実験の結果、fricative の中でも比較的エラーが多かった[θ]の知覚成績は、選択的注意を高めることによって、向上が見られた。しかし、liquid の知覚については、選択的注意が高い群においても、正答率の向上は見られなかった。この結果は、日本語母語話者にとって、fricative の知覚よりも[l],[r]の知覚の方が習得困難であることを示していると考えられる。本実験で得られた結果は、川﨑・田中(2018) として論文にまとめた。また、前年度までにおこなってきた、海外滞在経験の長さによる音韻カテゴリー生成の研究を論文にまとめ、書籍の中の1章として出版した。
|