本研究は留学等による目標言語圏での滞在が文法習得に与える影響について、日本語を母語とするドイツ語学習者の発話および作文データの分析から、語順と冠詞使用を中心に言語使用の変化を調査・分析するものである。平成29年度は前年度までに収集したデータの分析から研究報告を行なった。 1)定動詞の位置・語順習得:学習者2名に対するインタビューおよび作文各3回のデータを用いて、動詞の前域と定動詞の位置について考察をすすめた。発話データでは前域での副詞句および前置詞句使用(XVS構造)の増加がみられた。ただし副詞や接続詞などの短い前域でもXVS構造の実現には揺れがあり、XVS構造は前域における多様性から習得に時間がかかることが考えられる。作文データでは主語や副詞など短い前域の増加がみられることから、話しことば性が反映されていると考えられる。 2)冠詞習得:学習者4名に対するインタビュー3回のデータを用いて、定冠詞・不定冠詞の使用と定動詞の位置について分析した。冠詞使用と定動詞の位置に関する正確さは比例するが、どの学習者にも冠詞の省略傾向があり、特に統語的に複雑な構造で冠詞使用に揺れがあった。冠詞省略には明確な使用条件がみられないことから、学習者のL1(日本語)の影響と考えられる。学習者間の相違はコミュニケーションストラテジーの使用などの個人差によると考えられる。 3)分析結果については、国際ドイツ語教員大会(IDT)2017(スイス・フリブール、2017年7月)、ドイツ外国語教育学会(DGFF)2017(ドイツ・イェナ、2017年9月)、ウィーン大学外国語教育シンポジウム(オーストリア・ウィーン、2017年12月)、日本独文学会第23回ドイツ語教授法ゼミナール(葉山、2018年3月)で研究報告を行った。
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