本研究は、英文読解活動による学びの過程を、学習者の視点から探求する目的で、日本人英語学習者が意味理解を主な目的に英文を読むとき、言語形式にも注意を払うことがあるのかという課題に焦点をあてて行われた。Readingは学習者の内面で起こる認知的活動であるため、外部から観察することが困難であるが、発話想起法という学習者の自己報告の手法を用いれば、彼らの読解中の認知的活動を理解することができると考えた。 本研究の参加者は英語リーディングを履修する大学1・2年生26名で、2学期中5回にわたり、読解タスクに発話想起法で自身の読解過程を表しながら取り組み、さらに研究者らのインタビューに答えた。読解タスクは、意味重視の指導法である多読指導の研究で用いられるクローズ形式のものを用いた。 参加者の発話データを分析した結果明らかになったことは、主に次の点である:①比較的高い読解能力をもつ学習者には、内容理解を主眼に読み進めるスタイルの者と、言語的知識(いわゆる明示的な語彙や文法知識)を内容理解に応用しながら読むスタイルの者がいる。②いずれのスタイルも、言語的知識を必要に応じて内容理解に用いる術をもっている。③中級の読解能力の学習者は、言語的知識を内容読解に応用する術に乏しく、むしろ不完全な文法知識のため却って誤った内容解釈に陥ることがある。 本研究で明らかになった学習者の読解活動中の言語知識活用のスタイルは、中学・高等学校における語彙・文法指導のあり方を再考する上で意義がある。近年、言語活動に統合された文法指導が提唱されているが、本研究の結果はこれを支持するものとなった。語彙・文法知識を、独立して学習するアイテムとして導入・教授するのではなく、意味内容を表現するための言語形式として指導するフォーカス・オン・フォーム指導法について、より実践的な教授法の探求・考察の必要性が明らかになった。
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