本研究では初級英語学習者を対象とした英語多読が、早い段階で読み・語彙・情意等の諸側面にどのような影響を及ぼすか多面的に縦断的研究を行い、教育的示唆を得ることを目的とした。 参加者を多読群と対照群に分け、多読群は課外で本を各自が選んで読み進める多読を行った。5か月半の多読期間の前後に事前・事後の各テスト及び質問紙調査を実施した結果、多読の影響は次の通りであった。 ①読みの速さ、語彙認識の速さは早い時期に有意に向上したが、読みの正確さ、語彙の広さ、聴くことの正確さは有意に向上しなかった。②視線解析の調査から、英語の文章を読んでいる際の1回あたりの視線の停留時間に関して、有意な影響は見られなかったが、停留回数は有意に減少し、読みの質的変化があった。③質問紙調査の結果、早い時期に情意面では英語及び英語学習に対する肯定的な態度・動機づけが有意に高まり、読解ストラテジーに関しては、「英文を読んでいる時に日本語に訳さず英語のまま理解するストラテジー」をより多く使用していた。 多くの多読に関する実証的研究では様々な影響が報告されているが、初級学習者を対象とした本研究の結果を整理すると、a)多読は多面的に好ましい影響を及ぼすが、影響が早い時期に表れるものと、表れないものがある、b)多読が早い時期に及ぼす影響は、読みの速さ、語彙認識の速さのように、正確さよりも速さに関するものが多い、c)多読によって、流暢な読みの必要条件で読みの下位処理である語彙認識が速くなる、視線の停留回数が減る、日本語に訳さないで英語のまま理解する、読みが速くなる等の影響があり、結果として英語を読むことに対して、さらに広く英語及び英語学習に対して肯定的な態度・動機づけが高まるという相互に関連した多様な好ましい影響が見られた。多読の早い段階で期待される影響と期待しにくい影響を考慮して、指導計画に多読を組み込むことが望まれる。
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