研究課題/領域番号 |
26370722
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
福田 浩子 茨城大学, 人文学部, 教授 (60422177)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 言語教育 / リテラシー / 初等教育 / 複言語・複文化主義 / Passepartout / スイス / 教員養成・教師教育 / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、今後日本でもさらに進んでいくであろう「グローバル人材の育成」、あるいは「国際化・多文化共生に耐えうる人材育成」のための、初等教育段階での言語教育(主として外国語教育)やその教員養成はどうあるべきか、また何をなしうるのか、という課題に対して、ヨーロッパ(主にスイス)での先進的な取り組みとその成果、それを支える理論を調査研究し、参考にしながら、今後の日本語の言語教育と教員養成の在り方に示唆を与えることである。 平成27年度は、平成26年度に実施したスイスの現地調査の結果を踏まえ、主として初等教育に関する発表を行って意見を得ることを目標とし、実際に6月の異文化間教育学会第36回大会において発表を行い、その後の研究を含めて論文にまとめた。また、9月には、教員養成に関する調査として奈良教育大学を訪問、資料収集とインタビューを行い、12月にスイスで行われている複言語・複文化教育について、より深く理解するための研究会を行った。 以上の活動から、ドイツ語圏スイスにおける複言語・複文化主義に基づく言語教育では、従来の単一言語主義に基づく言語教育とは異なる理論的基盤に立ち、複言語・複文化能力を育成するための教育を実践していることがわかった。初等教育におけるPassepartoutはその代表的なものであり、初等教育で2言語(仏語、英語)を導入するだけでなく、内容・行動に重きを置き、基盤となる言語能力を異文化体験も交えたアクティブ・ラーニングを通じて伸ばしていくというものである。この方法は言語能力だけでなく異文化対応能力も伸ばしていくことが期待される。 日本において単一言語主義をとりつづけるか、複言語・複文化主義をとるかということは、今後の言語教育の方向性を決める大きな分岐点である。複言語・複文化主義に基づく言語教育について、その成果も含め更に詳しく見ていく必要があると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究実施計画の目標は、現地調査の結果を踏まえ、主として初等教育を中心とする発表を行って意見を得ることであった。具体的には、以下のとおりである。
(1)異文化間教育学会もしくは日本言語政策学会、日本国際理解教育学会のいずれかで発表する(6月~9月)(2)日本の初等教育、教員養成課程の現状調査、問題点のあぶり出しのため、9月に奈良教育大学ほかを訪問し、インタビューを行う(4月~9月)(3)日本の現状を踏まえ、連携研究者、研究協力者との意見交換を行い、日本への示唆について考える(9月~12月)
これらの計画のほぼすべてをこの計画通りのスケジュールかつ内容で遂行できた。したがっておおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当初、平成28年度は「現地調査の結果を踏まえ、主として教員養成に関する日本への示唆をまとめ、発表を行って意見を得るとともに、全体の提言をまとめて発表する」ことを目標としていたが、平成26年度、27年度と調査・研究を進めてきた結果、非常に多くの有益な資料を入手することができ、その丁寧な分析が必要であること、また、日本の教員養成を考えるにあたっても、そもそも母語教育、外国語教育を含めた言語教育において、単一言語主義をとりつづけるか、複言語・複文化主義をとるかということが、根本的な枠組みの問題として大きな分岐点であることが明白になってきたことから、平成28年度は、これまで入手した資料の分析と連携研究者、研究協力者を交えた更なる議論、日本の外国語教育にも大いに役立つであろうと思われる複言語教育に関する資料の出版に向けた準備をまず行う予定である。具体的には、研究協力者とともに、スイス・ドイツ語圏の言語の指導要領を翻訳し、電子出版の形で発表することを考え、すでに着手している。また、スイスの関係者との情報交換を通じて、もし必要があると判断すれば、現地の追加調査を行う。最後に、本研究の成果をのちに論文や書籍の形でまとめていけるように準備したい。
連携研究者:金森強文教大学教育学部教授、研究協力者:吉島茂東京大学名誉教授
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由の一つは、平成26年度に予算段階で想定していたスイス以外の訪問先、ストラスブール、カールスルーエ等が事前調査段階で対象からはずれたため(調査対象として予定していたプログラムが終了してしまったという事由による)、海外調査の日程が短くなったことによって、次年度に繰り越されたことである。また、本年度は奈良教育大学以外にも教員養成・教師教育関連の調査に行くことを視野に入れていたが、奈良教育大学において広範かつ膨大な資料を入手したため、その分析に時間をかける必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、資料翻訳、研究打ち合わせ、研究会、国内での調査研究活動や学会参加のための国内旅費などに使用する予定である。また、スイス現地との情報交換により、Passepartoutプロジェクトの成果検証が遅れていることは聞いているが、状況によって必要があれば、平成28年度に現地調査を行うこともありうる。
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