研究課題/領域番号 |
26370727
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
寺尾 智史 宮崎大学, 教育文化学部, 准教授 (30457030)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 南部アフリカ / アンゴラ / 言語政策 / バンツー諸語 / コイサン諸語 / ポルトガル語 / クレオール言語文化 / ネイションビルディング |
研究実績の概要 |
この欄では、本研究にかかわる論文・著書等、書誌的実績を掲げ、やや類似すると思われる項目である「現在までの進捗状況」にこれらの業績の土台となっている研究進捗状況および現状の問題点を記す。2015年度、本研究に関わる業績は、以下の通りである。 ①寺尾智史・編著『アンゴラ・赤道ギニア・サントメを知るための60章』(明石書店、2017年刊行予定) 本書籍は、アンゴラおよびサハラ以南アフリカ西部のフランス語圏以外のロマンス諸語――すなわちポルトガル語、スペイン語――を公用語とする諸国の言語事情を含む地域研究の画期を成すものとして企図されており、この中でも、面積、人口、資源、潜在経済力ともに大国であるアンゴラのエリアスタディを第一線の研究者が連携して具現化させる重要な礎石となることが期待されている。本書籍に関して、編者である寺尾智史は、言語状況や言語政策等の項目を含む、60章分の40章にわたって執筆予定であるが、そのうち30章に関しては、2014年実施したフィールドワークをもとに、すでに草稿を仕上げている。 ②寺尾智史「サントメ島――ポリフォニック・クレオールの輪郭」『立命館言語文化研究』第27巻第2号第3号合併号、217-231ページ(2016年)サントメ島とは、アンゴラ沖南大西洋上の島嶼国サン・トメ・イ・プリンシペ共和国を構成する主島である。アンゴラと同じくポルトガルの植民地であったことなどの歴史的背景により、奴隷貿易、農業労働者移動等でアンゴラとの関わりが大変深い。中でもこの島で話される複数のクレオール言語のひとつ、アンゴラール語は、その名称が示す通り、アンゴラのバンツー諸語がその成立に関与していると比定されている言語である。2014年のフィールドワークをもとに、こうしたことばの現状を明らかにした本論考を通じて、アンゴラと周辺地域との言語学的、社会言語学的相関を浮き彫りにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新所属先、宮崎大学への赴任に伴う教育活動繁忙および下記の事由により2015年度のアンゴラで現地調査は実施しなかったが、2014年度アンゴラ・フィールドワークの際の①現地インタビューの分析、②収集した資料群の分析は飛躍的に進展した。これらの成果は「研究実績の概要」に記した業績に十全に反映されている。以下、それぞれに関して記し、最後に問題点について書く。 ①2014年フィールドワークの現地インタビューの分析 2014年は、主にアンゴラ首都ルアンダ市、ルアンダ東郊のベンゴ州、アンゴラ南西部内陸のルバンゴ市においてフィールドワークを行ったが、ルアンダにおけるアンゴラ教育省の言語政策担当官、最高学府である国立アゴスティーニョ・ネト大学人文学部言語学・文化人類学教室教員、ルバンゴ市におけるウイラ州教育局の言語政策担当地方官、視学官へのインタビュー内容を書き起こし、分析を行った。 ②収集した資料群の分析 地道に集めてきたポルトガル植民地期から現代に至るまでの文献に2014年のフィールドワークで収集した資料を加えると500点を超えるコレクションとなった。主にポルトガル語で編まれたこれら文献をすべてカタログ化し、概要を日本語でまとめることによって、時代別の統治側の言語観、言語政策、住民の言語観を体系的に知りうる素地、研究・分析・議論のプラットフォームを形成した。 問題点:2015年度に現地調査が実施できなかった事由は、上記に加えて、シャワーが辛うじて設置されている程度、先進国では2つ星のビジネスホテル以下のホテルでUSD500/日かかる、アンゴラにおける異常な物価高に対応する寺尾自身の個人資産の不足もある。助成額が希望額から大幅に減額され、アフリカの一泊当たりの宿泊費規定が実際にかかる費用の1/4以下である現状では、多額の自己負担(持ち出し)が必須の経済的にも過酷な研究課題である点、理解を求めたい。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は研究の最終年度であり、研究対象の現状について、アップデートしたうえでの総括が求められる。現状のアップデートについては、何よりも、現地でのフィールドワークが必須の課題である。フィールドワークについては、上記「現在までの進捗状況」にも記した通り、法外ともいえる経済的負担が、助成を得てもなお、全く解消しない負荷として掛かっている。しかしながら、上記の点、および、現地に知己ある人物がいない限り(幸い、寺尾はこの点で大変恵まれている)調査活動の幅が非常に制限されるといった原因で研究が進展していない分野にブレークスルーを形成するとの前向きな取り組み方針をもとに、取得に多大な手数、費用のかかるビザの確保とともに、着実に取り進める(ただし、経済的に現地総滞在日数は2週間前後が限度と思われる)。 フィールドワーク先としては、前回訪問のルアンダ、ルバンゴ、ベンゴ州農村地域、言語文化的・経済的関わりの深いサントメの他に、アンゴラ文化の一原郷であるコンゴ王国(中心地は現在のコンゴ共和国やコンゴ民主共和国ではなく、アンゴラ北半にあった)の旧都で、キコンゴ語文化の一中心、ムバンザ・コンゴ、アンゴラと同じくイベリア半島の旧宗主国を持つ国家で、バンツー文化やクレオール文化でもつながりの深い赤道ギニアのマラボ(島嶼部主島ビオコ島内、首都)およびバタ(アフリカ大陸部リオムニ地域の行政中心地)を予定している。 上記のような困難な状況から得られる調査結果は、あますことなく分析・考察につなげ、そしてなるべく広く成果を社会に公表してゆきたい。この意味合いにおいて、寺尾智史・編著『アンゴラ・赤道ギニア・サントメを知るための60章』(明石書店、2017年刊行予定)の公刊は非常に重要であるととらえている。本出版を機会に、本研究をさらにアンゴラ地域研究の総体的発展につなげ、南部アフリカ地域理解の空白を埋めてゆきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度は、項目「現在までの進捗状況」に明記した通りの事由により、現地フィールドワークを実施せず、これを2016年度に実施することとしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度(最終年度)は、これまでの研究を総括し、アップデートする現地調査を実施し、その費用の一部として用いる。
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