研究課題/領域番号 |
26370731
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研究機関 | 岩手県立大学 |
研究代表者 |
黒岩 幸子 岩手県立大学, その他部局等, 教授 (80305317)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ロシア語教科書 / ロシア語発音教程 / 硬母音・軟母音 / 硬母音字・軟母音字 |
研究実績の概要 |
日本のロシア語教科書における伝統的な母音解説の誤り(子音のみに立てられる硬軟の区別が、母音にも存在するかのような「硬・軟母音」の概念)について検証、その起源と定着の推移などを検証した。 明らかになったことはつぎのとおり。(1)20世紀初めまでは、ロシアの学校教科書にも「硬・軟母音」が使われていたが、当時のペテルブルグを中心とする言語学者、ボドアン・ド・クルトネやシチェルバらの努力によって一掃されてゆき、現在では使用されていた記憶さえ残っていない。(2)19世紀末に来日した聖職者の執筆によるロシア語教科書により、日本にも硬・軟母音が伝わった。(3)さらに、その教科書をもとに日本人で初めて本格的なロシア語教科書を書いた八杉貞利により定着していった。(4)八杉は最後まで誤った母音の概念を訂正しなかったため、彼の権威と影響力の強さゆえに、その後も弟子たちによって安易に踏襲されていった。(5)1990年代頃から、母音に硬軟の別はないが、硬・軟子音に後続する母音の説明として「硬・軟母音字」の使用が広まっている。 以上の研究成果は、論文「日本のロシア語教程における『硬母音・軟母音』の概念について」にまとめて『ロシア語教育研究』第6号に投稿した。これをもとに8月に国際学会ICCEES幕張大会で、「日本の高等教育機関におけるロシア語教育の諸問題」をテーマにラウンドテーブルを企画、ロシアから招いた専門家を含めて日露の研究者5名によるセッションを行った。さらに、その後の研究成果や、ロシアで公刊された外国人用ロシア語教科書の中の不正確なロシア語発音解説を含めて日本ロシア文学会第65回大会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東京外国語大学などが所蔵している19世紀末から20世紀初めにかけての日本のロシア語教科書や参考書などは、予想外に図書館を通じて貸借することが可能であることがわかり、文献調査の時間が節約できたことで、ほぼ順調に論文執筆に至った。
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今後の研究の推進方策 |
論文掲載および学会発表によって、関心のある専門家たちから新たな情報や知見を得ることができた。今後は、(1)日本のロシア語教育分野において前人未到の業績を打ち立てた八杉貞利がなぜ最後まで誤った概念を維持したのか。(2)日本だけでなく旧ソ連圏やロシアの地方都市でも硬・軟母音の概念は生き続けていることが明らかになったので、その調査を予定している。それを踏まえて新たな発音教程のモデルを構想する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年8月に日本・幕張で開催された国際学会ICCEESで、申請者が企画したラウンドテーブルに、ロシア語教育および音声学の権威であるモスクワ労働・社会関係アカデミーのA.A.アキーシナ教授を招くことになり、その旅費が必要になった。ICCEESへの参加は科研申請時より予定していたが、アキーシナ氏およびその他のラウンドテーブル参加者の経費が予想以上に高額となったため次年度前倒しの支払いの必要性が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
19世紀末からのロシア語教科書は古いものであれ、日本国内の各図書館から申請者所属の大学図書館経由で貸借が可能であることがわかり、予定していた国内旅費の節約が可能であり、残された資金で十分に研究可能である。
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