平成28年度は、前年度までの調査・研究活動をベースにしつつ、前年度の現代中国学会での口頭発表を基にした「日清貿易研究所の教育について」(『現代中国』第90号、2016年)や、東亜同文書院の聴講生の中国語教育に注目した「水野梅暁ならびに藤井静宣(草宣)と東亜同文書院」(『同文書院記念報』25号、2017年)など4本の論文と愛知大学東亜同文書院大学記念センター主催国際シンポジウム「東亜同文書院卒業生たちの軌跡」などで3回の口頭発表を行うことで研究成果を広く公表した。これらにくわえて2本の論文をレフリー制の掲載媒体に投稿しており、うち1本は平成29年度中に公表されることが決定し、1本は審査中である。また、台湾において旧台湾総督府図書館所蔵資料を調査し、香坂順一『教課書式華語自修書』(台湾三省堂、1945年)等戦前の中国語教材を確認した。 平成28年度を含めた3年間の研究期間における活動によって、本研究の目的である東亜同文書院の中国語教育の実態を具体的に明らかにすることができた。東亜同文書院は、前身学校日清貿易研究所の北京語教育を教員、教材共に受け継ぎつつ、『華語萃編』など独自のさまざまな中国語教材を学内で作成し、さらに卒業生が教員となることによって教学経験を蓄積させていった。当初は実用文を覚えるだけの教育法だったものが、教員たちの中国語研究が進むにつれて文法教育が行われたり、実用性に止まらない教養的な教授が行われたりするように発展していた。さらに大学昇格後には大学の正式科目として同時代の中国語を教育しようとしていた。これは英語教育など欧米言語教育に偏っていた当時の日本の大学教育においては前例のないことであり、戦後の中国語教育の先駆けといえるものであった。他方で、正規学生以外の中国語学習に特化した聴講生も受け入れるなど、中国語を専門とする語学教育機関としても機能していた。
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