最終年度の研究成果としては、韓国における仏教遺跡の調査と、日本国内における境界信仰調査があげられる。 韓国のフィールド調査としては,百済の別宮が置かれたとされる益山の王宮里遺跡や弥勒寺址など,仏教遺跡を中心にそこから出土した文字資料を実見調査した。また、国立慶州博物館において、高麗時代の慶州の仏教関連遺物の調査を行った。とくに、慶州・仏国寺の石塔から発見された、高麗時代の重修文書に関して分析を行った。その成果は論文にまとめ、2017年度内に公表予定である。 国内においては,福井県小浜市に残る勧請板の調査を行った。勧請板とは正月に般若心経をはじめとする仏典を読み、その結願の日に願文を板に書いて村落の境界に吊す風習である。これじたいはいまに残る風習だが、この風習は遅くとも中世まではさかのぼり、その文言の中には平安時代の文書にみえるものも確認できる。この風習は各地に存在するが、日本海地域においては外から疫病等が流入するのを防ぐためにとりわけ強く意識されていたと考えられ、そのため現在に至るまでこの風習が残り続けていると考えられる。 研究期間全体の成果としては、中国の四川省、韓国南部、日本の日本海側諸地域のフィールド調査、とりわけ9世紀の仏教信仰にかかわる遺跡、遺物、仏教美術等の調査を通じて、古代・中世東アジア諸地域の境界領域における仏教信仰と国土意識の醸成の問題について見通しを持つことができたことが大きな成果といえる。研究期間中も、その問題に直接かかわる論考や學術講演により、その成果を発信することができた。
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