本年度は、これまでの調査を踏まえて「ソ連IPRの設立と米ソ関係」(第1回研究会、早稲田大学アジア太平洋研究センター)、「戦時中国外交と朝鮮IPR加盟問題」(第2回研究会、明治大学)の報告を行った。また、タイ国立図書館およびカナダ国立公文書館における史料調査を実施した。従来の研究においては日米両国に関する研究が中心となっていたが、本共同研究はそれ以外の国から参加したアクターに注目することにより、アジア・太平洋戦争に至る過程と戦後秩序形成におけるトランスナショナル・ネットワークと諸国家の相互作用の解明をめざすものであり、両国からの参加者の認識を解明することは重要なステップと位置づけられる。両国は、官民の協力の上で、戦後秩序に自国の影響力を確保するために「太平洋問題調査会(IPR)」という民間の知識人ネットワークを積極的に利用したことが明らかになった。タイでの調査は、前年度までに実施した台湾・韓国での史料調査に基づき、中華民国政府が「自由タイ」や「大韓民国臨時政府」のIPR支部設立を支援することにより、「アメリカの秩序」とは異なる戦後地域秩序の実現をめざしていたことを明らかにするものであった。カナダでの調査は、前年度までに実施したイギリス、アメリカでの史料調査に基づき、英米との関係をめぐって内部対立を抱えつつ、戦後の国際秩序に影響力を行使するために、IPRを利用してアメリカに接近していく過程を明らかにした。これまでに分析してきたイギリス、ソ連、中華民国から参加したアクターに、タイ、カナダを加え、アジア・太平洋戦争に至る過程と戦後秩序形成におけるトランスナショナル・ネットワークと諸国家の相互作用の解明がより包括的なものとなった。
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