本研究は、アジア・太平洋海域の有田焼交易ネットワークの復元を目的としたものであり、最終年度である平成28年度は、生産地である有田・波佐見、南米の消費地であるコロンビアの各都市の現地調査、加えてアジアの消費地であるセブ島出土の陶磁器の資料化を行った。コロンビアでは有田焼の出土は確認できなかったが、トゥンハという地方都市のサントドミンゴ教会の装飾の中に17世紀の有田焼の染付皿を発見し、コロンビアまで当時の有田焼が流通していたことを確認することができた。またコロンビアにおける磁器需要の性格を把握するために、中国磁器の出土状況を明らかにし、写真撮影と実測図作成による資料化も行った。 最終年度を含めた3年間の研究によって、アジア・太平洋海域の陶磁器需要の解明、有田焼流通研究の空白である中南米・カリブ海における流通実態の解明を行うことができ、当初の目的であったアジア・太平洋海域の有田焼交易ネットワークの復元を行えたと考える。とりわけ、カリブ海周辺(キューバ)や南米(ペルー、コロンビア)における有田焼の流通の証明が大きな成果である。この成果は、グローバル化が進む中で有田焼がどのような過程を経て、「世界商品」となり、そして、磁器そのものの一般化に貢献したか、という新たな研究テーマの創出につながるものとなった。陶磁器という物質資料を通して、グローバル化の世界史を描ける可能性を示したと言える。 研究成果については、最終年度は京都で開催された世界考古学会議、鶴見大学で開催された東南アジア考古学会、長崎で開催された日中社会学会などで研究成果を講演発表するとともに、複数の研究論文、研究ノートを公表した。さらに著書に成果を盛り込むとともに、3年間の総括となる研究報告書(総131ページ)を印刷刊行し、研究成果の還元につとめた。
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