本研究の目的は、日本中世成立期に編纂された真言密教の百科事典的文献『覚禅鈔』を文献資料として活用するため『大正新脩大蔵経』(以下『大正蔵』)所収『覚禅鈔』を中心としたデータベースを作成すること、作成したデータベースをもとに中世宗教界の知的・人的ネットワークの実態を明らかにし宗教界の知の構造と政治の関係について考察することにある。 データベースは、平成27年度までに『大正蔵』図像部所収『覚禅鈔』から書名・年号・図像データを抽出し頁数とともにExcelデータでの入力作業を行いつつ、OCRによるデジタルデータ化の方法を検討した。このうち、年号データは平成28年度までに9桁の西暦データを加えて年号索引を作成した。作業の過程で『大正蔵』に錯簡があることが判明したため、平成29年度は勧修寺本『覚禅鈔』の影印本である『勧修寺善本影印集成』および東京大学史料編纂所・金沢文庫所蔵の写真帳などを用いて調査・校訂し報告書にて公表した。図像データは、他本との図像比較のために平成28年度までに『大日本仏教全書』や千光寺本等の図像データを追記し、平成29年度にはSAT大正蔵図像DBとの関係をふまえつつ整理し『大正蔵』掲載順に整理した図像データを作成し報告書にて公表した。 年号データベースの作成により、『覚禅鈔』が蓄積する情報の年代別の分布が判明し、年号情報が集中する白河院政期後半から鳥羽院政期にかけての時代相との相関関係を明らかにすることができたため、この結果を平成28年度に第22回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」において発表し、論文「『覚禅鈔』データベースの活用-年号・図像データベースを中心に-」で公表した。また、平成29年度には写真帳の調査を行う中で西南院本『覚禅鈔』の伝来過程が中世から近世にかけて大和国における真言密教の展開と密接に関係することが明らかになったため、論文「東大寺蓮乗院と『覚禅鈔』」などで公表した。
|