日本史における中世の成立史を10世紀から12世紀にたどった。その重要な特徴は、仏教の全社会的な組み込みであると判断した。その上で、国家宗教や政治宗教として発達した日本中世仏教の圧倒的威力を確認しつつ、それらに抗して獲得されはじめた普遍的思想について、文献史料から見出す研究を実施した。日本中世の国家宗教としての仏教の確立は、東アジア世界の激動に影響されつつ、権力事業としてなしとげられた。いっぽう、民衆の生活世界では、地縁によって自立化をめざす新しい村づくりが進展し、自覚的に平等・結集・平和が求められ、その手がかりが仏教に求められ始めた。以上の点を、文献史学の手法によって、例示的に論じた。
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