(イ)地方官衙遺跡出土木簡の事例収集に関しては、2018年12月までの情報を収集・整理し、最終年度に作成した報告書に「古代地方官衙遺跡と出土木簡一覧(稿)」を掲載することができた。また出雲国をフィールドとして考察を論文にまとめ、「郡的世界」の実像を解明するとともに、近年出土点数が増加する木簡の整理・解釈を試みることができた。ここではまた10世紀以降の木簡についても整理しており、その知見は報告書に「木簡と郡司・郡家の行方」という論文を執筆する上で、視点として資するものとなった。その報告書掲載の論文では、8・9世紀の地方官衙遺跡出土木簡の内容の特色と10世紀以降の木簡との対比を試み、今まで論究が不充分であった10世紀以降の出土木簡の様相と「郡的世界」から国衙の支配への移行の様態を考究することができた。 (ロ)国衙運営の全体像を知る史料に関しては、『朝野群載』巻26などの入力を進めた。肥前・肥後・薩摩などについて、在庁官人・武士・相撲人の動向を検討し、個別事例を付加することができた。 (ハ)国衙関係者・在庁官人表の補訂と個別事例の分析に関しては、報告書に「平安・鎌倉時代国衙関係者・在庁官人表(稿)」として集成・補訂の結果をまとめた。個別事例では上述の九州地域について分析を行い、合せて現地踏査も実施することができた。 (ニ)木簡出土遺跡や国衙支配の場の踏査と資・史料の入手については、上述の九州地域に関連して、薩摩国府・国分寺や一宮、薩摩平氏の拠点となる加世田別符の踏査や尾張国府国分寺・一宮の踏査を行ない、特に前者については、論文作成の上で、大いにその知見が役立った。
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