研究課題/領域番号 |
26370779
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研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
山内 晋次 神戸女子大学, 文学部, 教授 (20403024)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 硫黄 / 硝石 / 黒色火薬 / 日宋貿易 / 日明貿易 / 日朝貿易 / 琉球 / 博多 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、14~16世紀頃の東アジア地域の硫黄流通において、その産出地・輸出元として国際的にもっとも重要な役割を演じていたのは琉球ではないか、という平成27年度に提示した仮説をより確実なものとすべく、その問題を中心に各種データの収集をおこなった。そして、2017年3月の長崎大学における研究会で、その成果の一端を報告することができた。 本課題研究では当初より、関連する史跡・資料館や鉱山跡などの現地調査を重視してきた。そこで、平成28年度においてはまず、火薬原料の国際的な流通を担った貿易船のより具体的なイメージをつかむべく、日元貿易船の現物である韓国・新安沈船の特別展をソウル・光州で見学するとともに、木浦で開催された同沈船発見40周年記念の国際シンポジウムに参加した。また、平成27年度に台風のため中止となった沖縄県・硫黄鳥島(琉球王国の硫黄鉱山跡)の現地調査を再び計画したが、本年度もまた天候の急変のため途中で断念せざるをえなくなった。 本課題研究に関わる論文としては、宋代中国史料にみえる硫黄を積載した日本船の漂着記事を分析した小論(執筆は平成27年度末)と、11~16世紀の東アジアにおける硫黄流通に焦点を絞った愛媛大学での講演を文章化したものを公刊することができた。 また、本研究課題の諸成果を組み込みつつ、2016年11月から2017年3月にかけて、愛媛大学・九州大学・同志社大学・長崎大学・華南師範大学でおこなわれた講演会・シンポジウム・研究大会などで口頭報告をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題研究では、火薬原料としての硝石と硫黄の双方について、10~17世紀頃のユーラシアにおけるそれらの流通状況を、日本史に軸足を置きつつ解明することを当初の目的としていた。ところが、実際にさまざまな文献資料を検索していくなかで、とくに10~15世紀頃の古い時期おける硝石関連の記録があまり残されていないことが、よりはっきりとわかってきた。 また、当初の研究計画では、データ収集の対象とする地域を東アジア・東南アジア・南アジア・中央アジア・西アジアなどにまたがるユーラシアのほぼ全域と想定していたが、実際にデータの取集を進めていく過程で、そのような広範囲に及ぶデータの収集は時間的にも言語的にもかなり難しいことがわかってきた。 そこで、研究期間(平成26~29年度)の後半に入った平成28年度には、古い時期の記録が硝石よりも多く残されている硫黄に関して比重をかけつつデータを収集し、なおかつデータを収集する地理的な範囲についても数多くの漢文史料が残されている東アジア地域に重心を置く、という方向に研究の流れを修正した。そしてその結果、とくに14~16世紀頃の東アジアにおける硫黄流通に関するさまざまな新たなデータを得ることができ、研究をより深めることができた。 しかし、本課題研究の申請時に、平成28年度の研究内容として予定していた、中国からユーラシア各地への火薬・火器技術の伝播・拡散状況に関するデータの収集、という段階などにはほとんど踏み込むことができなかった。この点で、本研究課題の進捗状況に若干の遅れがあることを認めざるをえないであろう。
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今後の研究の推進方策 |
本課題研究の最終年度である平成29年度には、これまでの3年間に収集したさまざまなデータとそれらにもとづいて公にした論文・口頭報告などの諸成果を総合的に整理し、10~17世紀頃のユーラシアにおける火薬原料としての硝石と硫黄の流通状況について、全体的な見取図を提示してみたい。 ただし、現時点での本課題研究の進捗状況からみて、その見取図は、硝石よりもデータの残存率が高い硫黄に比重が置かれたものであり、なおかつユーラシア東部の東アジア地域について他の地域よりもより詳細な状況が述べられたものとならざるをえないであろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題研究において重要な意味をもつ沖縄県・硫黄鳥島(無人島)の現地調査を、平成28年11月末に鹿児島県・徳之島で漁船をチャーターして実施しようとしたが、調査当日に悪天候のため海況が悪くなり、徳之島の港を出航したものの途中で引き返さざるをえなくなった。このため結局、昨年度の硫黄鳥地調査を断念することとなり、その船のチャーター料などとして支出予定であった現地調査費用が不要となったため、平成29年度にその残金を繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
本課題研究の最終年度である平成29年度には、これまでの3年間の研究蓄積を土台として、10~17世紀頃のユーラシアにおける火薬原料としての硝石・硫黄の流通状況について、東アジア地域に比重をかけつつ結論的な見取図(仮説)を提示する予定である。この見取図(仮説)を練り上げていく過程では、複数の学会・研究会で研究発表をおこなうことにより、自説に修正を加えつつより完成度の高いものを作っていきたいと考えている。このため、平成29年度においては、それらの学会・研究会に出席するための旅費をこれまでの年度より多めに使用したい。 このほか、さらに新たなデータを収集していくために関連図書の購入も継続していきたい。また、悪天候のために平成27・28年度の2度にわたって中止に追い込まれている沖縄県硫黄鳥島の現地調査を実現するために、平成28度未使用分を繰り込んだかたちで旅費として使用したい。
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