研究課題/領域番号 |
26370779
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研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
山内 晋次 神戸女子大学, 文学部, 教授 (20403024)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 硫黄 / 火薬原料 / 日明貿易 / 日朝貿易 / 琉明貿易 / 博多 / 対馬 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、14~16世紀の東アジア海域において、日本(豊後・薩摩)産および琉球(硫黄鳥島)産の硫黄が日元貿易・日明貿易・日朝貿易・琉明貿易などの個々の貿易ルートを通じて中国・朝鮮へと輸出されていく状況に関して、統合的な流通構造のモデルを構築することをおもな課題として研究を進めた。 このような研究の過程で、①日本産の硫黄が14世紀~16世紀半ばの日元・日明貿易を通じて中国に継続的に輸出されたものの、15世紀半ば頃から輸出不振に陥ったこと、②対中国輸出が不振に陥った日本産硫黄は朝鮮という新たな市場に流入していったこと、③この日本産硫黄の対中国輸出の不振の背景には、琉球産硫黄の中国への輸出の本格化という状況があったこと、④琉球産硫黄は基本的に朝鮮市場に輸出されることはなく、中国にのみ輸出されたことなどの具体的な流通状況が明らかになった。 そして、以上のような個別的な流通状況は、(a)日明・日朝貿易に深くかかわっていた博多・対馬の商人や地域権力が、15世紀半ば頃からの日本産硫黄の対中国輸出の不振という状況に直面し、その代替市場として朝鮮という新たな市場を開拓した、(b)他方で琉球と朝鮮との貿易にも深くかかわっていた博多・対馬の商人・地域権力は、朝鮮を日本産硫黄の市場として維持するために、琉球産の硫黄をその市場に持ち込まなかったため、琉球産硫黄は中国にのみ輸出され続けた、というように博多・対馬の商人・地域権力による商業戦略を媒介とするで、統合的・連関的な流通構造モデルとして把握できるのではないかという仮説を提示するに至った。 以上のような研究成果は、平成30年度中に刊行予定の論文集に寄稿するとともに、北大史学会、九州史学会、琉球・沖縄歴史研究会などの学会・研究会で口頭発表をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、火薬原料としての硝石と硫黄の両方について、汎ユーラシア的な流通状況を解明する予定であった。しかし、これまでに検出できた硝石関連史料が想定よりもはるかに少ないため、研究計画の見直しをおこない、比較的残存史料が多い硫黄に研究のターゲットを絞った。 この結果、昨年度はとくに、14~16世紀頃の東アジア海域を中心に、硫黄の流通構造の解明を比較的順調に進めることができた。ただ、これ以外の東南アジア・南アジア・西アジアなどの地域の状況に関しては、若干の関連史料を検出できたことによりその流通構造の大枠が見えはじめてきたものの、いまだ十全な考察には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の延長を認められた平成30年度における主要な課題は、14世紀から19世紀にかけて琉球の王権・国家が中国王朝(明・清)に輸出した硫黄の唯一の産出地であった、現在の沖縄県・硫黄鳥島の現地調査である。この現地調査は、本課題研究の重要な柱のひとつとして、これまでに2度実施を試みたが、悪天候のため2度とも失敗しており、今回が3度目のチャレンジとなる。 この現地調査を通して、硫黄鳥島での硫黄生成の状況や島内に残された考古学的な遺構・遺物(硫黄採掘場・陶磁器など)などに関するデータを収集し、それらを歴史書・古文書などの文字史料のデータとつき合わせることにより、前近代の汎ユーラシア的な硫黄流通構造の一部に組み込まれていたと推定される琉球産硫黄の具体像に迫ってみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に実施する予定であった沖縄県・硫黄鳥島の現地調査を、参加メンバー間でのスケジュール調整がうまくいかなかったために中止せざるをえなくなった。このため、1年間の研究期間の延長をおこなったうえで、次年度においてこの現地調査の関連費用として研究費の残額を使用する。
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