中世の国衙(国府および在庁官人の集合体)をめぐる宗教状況について、特に寺社における修法・祭祀との関わりを重視して研究を行なった。国衙を拠点として、一国内の宗教が展開していくという見通しを確認するためである。対象地域としては、備前・備中・備後・安芸が挙げられる。具体的には、岡山県岡山市・総社市、広島県府中市・府中町における寺社を対象とした。寺院としては天台宗の寺院、神社としては一宮・惣社以下の神社に注目して、関連する史料を収集した。それにもとづき、現存する祭祀・修法への参与観察を行ない、中世における実態を復元する考察を行なった。これにより、山陽地域における吉備津神の重要性と天台浄土教の展開を跡づけることができた。吉備津神社は、もと備前・備中国堺に位置していたものが、二箇国の成立により「一国一宮制」が適用されて分立し、また備後吉備津神社はそれとは異なる事情により成立したと思われる。神社における大般若経転読には天台系の寺院の僧侶が参加し、これにより一国内の平和が祈られるとともに、国内の民衆統合が図られた。
|