研究課題
本事業は、日本における歴史意識が、時間意識の進展とどのように関わって形成されるのかを解明するため、『日本書紀』およびその他の国史(特に『続日本紀』)を対象に研究するものである。平成26年度は、7世紀以前を中心に暦日関係資料の調査を行った。その過程で三個の論点を見いだしたので、その検討を主に行った。①「七、八世紀における文化複合体としての日本仏教と僧尼令―卜相吉凶条を中心に」(『仏教文明と世俗秩序』所収)では、7世紀初頭に百済から仏教文化とともに暦算技術がもたらされ、7~8世紀に律令国家における陰陽寮として制度が整えられる意義について解明した。端的に言えば、暦計算に使用する巨大な数字を扱いうる人材が、倭国段階では仏僧だったのである。また8世紀初頭の大宝律令で仏僧が、暦算を含む世俗的技術の使用を禁止された理由も想定できた。その理由の中に、気候変動による影響(災害除去の祈祷のための仏教純化)もあり、自然科学的時間論との連携も必要であることが判明した。併せて仏教と世俗学術との関係についても論点を整理することができた。②「光仁・桓武朝における『続日本紀』後半部分の編纂について」(学会報告)では、『続日本紀』が最終的に完成する光仁・桓武朝の編纂目的が、撰進者により表明されている理由とはかなり異なっていたことを検証した。この点は、さらに検討を加えて公表する予定である。③9世紀以降は、陰陽道が暦日に呪術的な意味を与える。これに先行するものとして亀卜があり、欽明天皇14年(553)に百済から暦とともに卜書が伝来した。亀卜に関しても、時間意識との関係に留意しながら解明を進めており、2015年度には一部を公表する。
2: おおむね順調に進展している
『日本書紀』対象時期より『続日本紀』対象時期にかけての時間観念の発達(暦の定着)と、仏教との関係性に付き、一定の成果が得られた。また『日本書紀』対象期については、時間の呪術である陰陽道に先行する、亀卜という新たな論点も見つかっている。また『続日本紀』の性格解明について一定の進展があった。
暦日資料の収集を進める。『日本書紀』に関しては収集した資料を踏まえ、仏教・百済文化(亀卜を含む)の影響という観点で推進する。また『風土記』の説話も検討対象に含める。『続日本紀』に関しては、編纂過程の検討を進め、『日本書紀』との関係も検討する。
一部前倒しをして研究成果を公表したため、他の資料調査と入力が遅れたことが理由である。
残りの資料調査等を進める予定である。
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