最終年度は、まず「陰陽道と東アジア」(『古代日本と興亡の東アジア』)を発表して、古代の時間意識発展の終着点と言える陰陽道成立の経緯と理由とについて、見通しをえることができた。また2016年以前発見の木簡(及び一部金石文)より暦情報を抜き出して時間順に並べた『古代木簡における暦日記録目録(稿)』を作成して、古代日本における暦日意識の浸透について考察する材料とした。この作業過程で得た知見を基にして、歴博国際シンポジウム「年号と東アジアの思想と文化」(2017年10月、国立歴史民俗博物館)では「年号と時間意識について―古代を中心に」を報告して、年号と暦との関わりについても考察した。さらに2018年度に入ってであるが、共編『日本書紀の誕生』を刊行し、その中での「日本書紀の暦日について―雄略紀を中心に」で、『日本書紀』の暦日がどのように決定したのかを、明らかにした。さらに頒暦実施以前の倭国では、暦年月まではある程度普及していても、日付については極めて不十分であったことを明らかにした。本事業では、『日本書紀』を一種の公文書として編纂過程をみる視点を採用した。その結果、『日本書紀』の矛盾点は編集上の単純な不備だけではなく、原資料の問題や、編者同士、編者と進呈された天皇との関係など、多角的にみるべきことを示せた。そして「日本国」誕生のまさにその時期に、この史書が「日本国」の歴史を創出する意図で編纂されたことを明確化した。そして『日本書紀』の暦日の信憑性は、叙述対象の時代における暦日の使用状況を、日本に大きな影響を与えた百済の状況をも踏まえて理解することが必要であることを示した。また日本における暦日意識定着について研究することが、過去の科学研究費補助事業の成果と結びついて、陰陽道成立史研究についても、一定の進展をみることができた。
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