研究課題/領域番号 |
26370786
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井澗 裕 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 境界研究共同研究員 (10419210)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 北進論 / 樺太 / サハリン / 日蓮主義 / 保障占領 / 軍事裁判 |
研究実績の概要 |
本研究では、「北進論」という概念に着目して、これに該当する言説群の整理検討をはかるとともに、より体系的な北方圏の歴史理解を進めることを目標としてきた。その成果として、以下に挙げる二つの成果を世に問うことができた。1)『境界研究』第6号に「日持上人の樺太布教説をめぐって:帝国日本における北進論の特質と影響①」と題する論文を発表した。2)第一回日本シベリア学会において「サハリン軍事占領と司法:ロシア連邦極東歴史公文書館所蔵資料を中心に」と題する報告をおこなった。 1)「日持上人の樺太布教説をめぐって」では、第一に、北進論とよばれる言説を言説の発表時期と対象地域から三種に区分すべきであることを論じた。それは①北海道・樺太・千島について展開された「北守という名の北進論」、②満蒙を中心とする大陸進出論、③征露論の3種であった。これらの区分を包括した、特筆すべき事例として、「日持上人の海外布教説」をとりあげ、この伝説が大アジア主義を正当化する言説として流布していく状況に考察を加えた。その結果、この伝説の流布した過程については、いわゆる「義経チンギスハン伝説」との相互補完性・連関性が濃厚に認められること、大陸ではこの言説の影響は限定的であったと見られること、対照的に樺太においては、この伝説が何度も紹介・引用され、あたかも史実のような形で語られており、日本人が鎌倉時代からサハリンで活躍していたとする「新たな北方史」の証左となっていたことなどを論じた。 2)「サハリン軍事占領と司法」では、ウラジオストクの歴史公文書館に所蔵された北サハリン軍事占領期の裁判資料を考察し、保障占領と称された軍政下において、日本軍がいかなる裁判をおこなっていたのかを実証的に論じ、同地では或る程度の「裁判の公平」が存在していたこと、これが日本の北方進出を有利に導くことを志向したものだと論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
北進論の総体を把握するための言説群については、サハリン・樺太地域を中心に相当数を収集することができた。また、おおまかながら、北進論の特質分類について、論文を刊行しえたことは評価すべきことと考えている。ただ、一方で千島列島に関する文献の収集整理については、おおよその目処は付いたものの、まだ十分とはいいがたい。 同様に、北サハリンの軍事占領期(1920-1925)に関する言説群については、研究分担者となっている基盤研究(B)「サハリン(樺太)島における戦争と境界変動の現代史」との連携から、この共同研究の成果報告集において論文を発表する予定であったが、この報告集の刊行が遅れているため、成果として報告することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は千島列島に関する北進論について、明治中期における海獣密猟に対する脅威論(郡司重忠など)を軸として検討考察を加えた論文を執筆するほか、研究分担者となっている基盤研究(A)「帝国日本の異動と動員」との連携を鑑み、「朔北のからゆきさん:樺太における公娼と私娼」と題する論文を執筆する予定である。 また、北進論の影響に関連して、第二次世界大戦時の日ソ戦争に関する論考を、『岩波講座 ロシア革命とソ連の世紀』第2巻中に提供し、帝国における北進論の帰結点を論じる予定である。 「北サハリン軍事占領と司法」についても、「サハリン(樺太)島における戦争と境界変動の現代史」の中で論文をまとめる予定であり、これも本年度中に上梓される計画となっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額46,655円は、平成28年3月に購入した書籍の支払いが4月になる為生じたものである。物品費について、残額1,168,657円は、古書籍の購入を検討していたが、研究に有用と思われる古書籍を見出すことができなかったため、購入を見送った。そのために生じたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
残額46,655円は、平成28年3月に購入した書籍の4月支払に充てる。残額1,168,657円は、専門書籍・古書籍の購入に充て、その書籍をもとに最終年度としての成果をまとめる。
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