研究課題/領域番号 |
26370787
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山室 恭子 東京工業大学, 社会理工学研究科, 教授 (00158239)
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研究分担者 |
小笠原 浩太 東京工業大学, 社会理工学研究科, 助教 (00733544)
イ チャンミン 福岡県立大学, 人間社会学部, 講師 (50632436) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 江戸商人 / 参入と退出 / 番組編成 |
研究実績の概要 |
計画初年度の本年度は、まずデータベースの構築を最優先課題として実施した。情報源としては『江戸商家・商人名データ総覧』全7巻(2010年刊行)を用いる。江戸商人関連の資料を網羅し集成した現状で最良の情報源だからである。ここから個々の商人の同定作業を経て、4000件ほどの個票データベースを構築し、それをもとに、個々の商人の存続期間や株の継承原理、業種と店舗分布、番組編成の基準など、江戸商人の実態解明につながると思われる切り口を、さまざまに工夫して分析を加えた。 その結果、平均存続年数が15.7年と一代にも満たない短さで参入と退出を繰り返す大店の商人たちの様相が浮かび上がり、通説のイメージと大きく異なる不安定さが検出された。かつ株の相続は金銭を媒介とした譲渡が半数を占め、血縁原理と程遠いことも判明した。 さらに、それぞれの商人の特性を地域分布など他の要素も勘案して分類してゆくと、江戸の商人は以下の三類型にまとめられる。 一つめは全域型。江戸全体の店舗数の八〇%を占める。扱う商品は米や炭薪などの生活必需品。利益率が小さく、店舗の参入退出も激しいので存続期間は短命。江戸の全域へと広く店舗展開し、同業者仲間で番組を編成して担当する地域を分割する地区割り営業を特徴とする。地味ながらも江戸の屋台骨と言えよう。 二つめは都心型。店舗数シェアは一〇%ほど。扱う商品は薬・呉服・小間物などの贅沢品。利益率が大きく、店舗の参入退出は比較的ゆるやかなので存続期間は長寿。狭い日本橋地区に集中立地し、同業者どうしで激しく顧客を奪い合う自由競争を特徴とする。華やかな江戸の顔と言えよう。 三つめが特化型。店舗数シェアは一〇%ほど。武家が顧客の金融業(札差)と人材斡旋業からなり、札差は長寿だが他は短命。蔵前など武家相手の営業に便利な特定地域に立地する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
準備段階でデータベースの構築がかなり進展していたため、すぐに分析に入ることができ、さまざまな切り口での分析にトライすることができたことが、順調な進捗に大きく寄与している。 当初は存続年数・株の継承原理・店舗の地域分布といった諸特徴の分析しか視野に入っていなかったが、その切り口ごとの分析を組み合わせて、さまざまな仮説を検証するうちに、バラバラに見えた江戸商人が全域型と都心型と特化型の3つの類型にまとめられるという方向性が見えてきた。 この方向性を踏まえて、本年度は計画通りに定性分析フェイズへ進む。その際には、日本橋地区の特性、それと対蹠的な本所・深川地区への着目など、定量分析で見えてきたいくつものキーを手がかりに、適切な定性資料を組み込んで、より立体的な江戸商人像の構築へとチャレンジする。
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今後の研究の推進方策 |
データベース分析に見通しが立ったので、申請書の段階でも本年度の目的として掲げている定性分析フェイズに移行する。 探索対象は、まず以下の2つのシリーズから始める。 ・『東京市史稿』 産業篇 第35巻-第54巻(寛政2年1790-天保12年1841) 江戸の町の行政に関わる事項と関連資料を年代順に掲げているので、寛政期以降の公儀の政策を通時的に追って、その傾向や揺れを検出する。ただし、本研究の焦点となる天保の改革期以降は未刊なので、株仲間解散とその復興については、別に情報源を求めなくてはならない。 ・『諸問屋再興調』 全15巻 嘉永4年(1848)の問屋再興に際して、各問屋の再興の可否を検討するために町奉行所に集積された調書類。公儀がどこまで業界ごとの個別状況を把握していたかという行政側の視点とともに、町人たちから上げられた嘆願書等を通して、彼らが行政に何を期待していたか、商人サイドの意向をも汲み取りたい。 ほかに法令集の『江戸町触集成』全20巻や旧幕府文書を良く拾っている『日本財政経済史料』全10巻など、先人が積み重ねてくれた営為のあとを追いながら史料探索を進めてゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
『東京市史稿』など本研究に必須の資料集の購入を年度内に予定していたが、当該資料の刊行が予定より遅くなり、年度内購入が間に合わなかったため次年度送りとした。
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次年度使用額の使用計画 |
上記資料を本年度の早い時期に購入して、分析のためのデータベースを作成する。
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