研究課題/領域番号 |
26370788
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
石居 人也 一橋大学, 大学院社会学研究科, 准教授 (20635776)
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研究分担者 |
阿部 安成 滋賀大学, 経済学部, 教授 (10272775)
森川 恭剛 琉球大学, 法文学部, 教授 (20274417)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 日本史 / 近現代史 / ハンセン病 / 隔離 / 療養所 / 生 |
研究実績の概要 |
本研究の初年度となった平成26年度には、国立療養所大島青松園および国立療養所沖縄愛楽園を訪れ、キリスト教霊交会・青木恵哉関係を中心に、歴史資料(以下「史料」と表記)の調査・デジタル写真撮影、および聞きとりをおこなった。その成果としては、おもに以下のふたつをあげることができる。 ひとつは、大島青松園のキリスト教信徒団体である霊交会が大正8(1919)年に創刊し、昭和15(1940)年に廃刊となった機関紙『霊交』を、リプリント版(阿部安成監修・解説、全6巻・別冊1、近現代資料刊行会)として11月に刊行したことである。『霊交』は、療養者の手によって発行された、大島青松園に現存する最も古い刊行物であるのみならず、全国の療養所にも類例がみられないという点で希少性を有している。また、創刊当初の一部の巻号が見つかっていないものの、その大半が現存しており、それをリプリント版というかたちで、広く閲覧に供したことは、今後の研究の進展に資するものと考える。 もうひとつは、霊交会の創設100年を期して、『島で―ハンセン病療養所の百年―』(阿部安成著、サンライズ出版)を刊行したことがあげられる(3月)。当該書は、霊交会の歴代会員のうち、三宅官之治・長田穂波・青木恵哉・石本俊市の4名に仮託しながら、霊交会の100年を描きだしたものである。霊交会の歴代会員は、療養所における療養者自治の中心的な担い手であることも少なくなかった。それゆえ霊交会の100年を考えることは、療養者に即して療養所の100年を考えるよすがともなる。 また、霊交会の創設信徒である三宅官之治の郷里(岡山県)にある墓所について調査し、療養者とともに訪問した(5月)ほか、連続講演会(7~11月)を4名の講師で全5回おこない、在園者と市民と研究者によるディスカッションの機会を療養所内に設けた。大島青松園ではこうした機会は初めてのこととなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、隔離政策のもとで抑圧され、それに抗して戦うといった、療養者イメージにかならずしも収斂しない、多様な療養者の生(life)のありように注目する。具体的には、国立療養所大島青松園と国立療養所沖縄愛楽園を中心に、療養所内外にわたる交流と療養所を超えた療養者の移動について、その媒(なかだち)となった自治・信仰・刊行物などに注目しながら療養者の生を跡づけ、考察するものである。 平成26年度、大島青松園では、霊交会所蔵史料を中心とした調査とデジタル撮影などをおこない、その成果のひとつとして、霊交会の機関紙『霊交』と、創設信徒である三宅官之治に即して霊交会の草創期を描いた『癩院創世』(1949年)のリプリント版(11月)、および『島で―ハンセン病療養所の百年―』(3月)を刊行することができた。また、『霊交』や、さきにリプリント発行した『藻汐草』など、療養者の手になる刊行物を史料として療養者の生の軌跡を描きだすとともに、創設信徒の墓所訪問や連続講演会を、療養者を交えて実施するなかでみえてきた、かならずしも文字化されていない療養者の生の軌跡を、記録することに注力した。なお、入所者自治会の史料調査と撮影、文化会館図書室蔵書の調査は、平成27年度も継続する必要がある。 沖縄愛楽園では、青木恵哉関係史料の調査が進んでいる。そのなかで、大島から熊本の療養所(回春病院)を経て、沖縄にわたった青木の足跡を著した『選ばれた島』の初版(1958年)と復刊版(1972年)の異同の検討と、いずれも絶版となっている両版のリプリント発行に着手する必要が生じた。検討作業の成果の一部は、滋賀大学経済学部 Working Paper Series として、滋賀大学学術情報リポジトリでも公開している。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に得られた成果をもとにして、以下の調査・研究を実施する。 A.大島青松園 ①入所者自治会所蔵史料の調査・デジタル撮影を継続するとともに、戦中から戦後初期にかけて、療養者が手稿を束ね、製本するかたちで作成した手書き『青松』をリプリント版として刊行し、②文化会館図書室蔵書の調査をおこなう。また、③写真・映像・文字史料などを用いて、療養者と調査者とが自由な対話をかさねながら療養者の生に迫るべく、対話=聞きとりの場を設けて、その内容を記録し、文字化する。そのためのひとつの手段として、写真・映像・文字史料などを用いて話題提供をおこなう講演会を開催し、療養所外の人びとも交えた対話=聞きとりの場を設ける。④これまでの調査の成果をふまえて、著作をまとめる。 B.沖縄愛楽園 ①沖縄愛楽園自治会が所蔵する青木恵哉関係史料の調査・デジタル写真撮影、および②沖縄愛楽園自治会などでの園内刊行物の調査・デジタル写真撮影を進める。また、③青木恵哉の足跡を著した『選ばれた島』の初版(1958年)・復刊版(1972年)をあわせたリプリント版を刊行する。 C.その他 沖縄愛楽園・大島青松園では所在が確認できない、①琉球弧、②旧植民地、の療養所内刊行物の調査とデジタル撮影をおこなう。また、これまでの調査・研究の成果をふまえたワークショップを開催する。
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次年度使用額が生じた理由 |
既収集史料に関する作業を優先するべく、平成26年度中の実施を見送った出張があったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度にあらためて出張を実施するため、旅費として使用する。
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