本年度は、これまで収集した諸史料をもとに次のような研究をまとめた。 1.慶応3年長州藩東上出兵と討幕に関する研究。慶応3年の長州藩および薩摩藩の東上出兵については、その真相が解明されてこなかった。そのため近年は、討幕は無かったとする説も出るような状況となり、学説が混迷している。その克服を図るため、「柏村日記」や「三藩連合東上一件(楫取素彦の日記体の編年史料)」等の一次史料を分析して、討幕への過程を具体的に明らかにし、小さな勢力が巨大な政権に立ち向かうために状況に応じて妥協・修正はあるものの、討幕の基本方針は貫徹していることを実証した。 2.五榜の掲示と木戸孝允に関する研究。五榜の掲示の作成者については、これまで不明であったが、木戸孝允の未翻刻草稿類を精査することにより、木戸が何度も手を入れ修正した草稿を多数発見し、五榜の掲示に結実していく過程を明らかにし、木戸が作成者であることを実証した。このことは、五箇条の誓文・宸翰・五榜の掲示は、その内容と公布過程からみて一体のものであるというこれまでの自説を補強することになった。 3.幕長戦争と厳島に関する研究。幕長戦争については、これまでは戦場となった西国街道を中心とする内陸部側の研究が主であったが、厳島神社の「野坂家日記」を分析して、征長軍の周防大島出陣の基地となっている様相、厳島に避難している内陸側住民の生活状況、対岸に見える幕府軍と長州軍の戦闘方法の違いと比較、厳島講和の状況等、戦争と厳島のかかわりについて総合的に解明した。
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