平成28年度は、長崎県立対馬歴史民俗資料館所蔵「宗家文庫」の内、海漁政策を管掌していた御郡奉行所の「毎日記」の補充調査を9月と3月に実施した。「御郡奉行所毎日記」からの漁業関係記事の抽出作業は平成26年度に一応完了したが、本研究実施以前の過去の調査では、捕鯨や海士漁など特殊漁業の抽出を省いた時期もあったため、本年度は漁業関係記事を網羅的に再把握する作業を進めた。この補充調査の成果を反映させることのできた時期に関しては、『対馬海漁年表Ⅰ:寛永14年(1637)~元禄9年(1696)』にまとめて公表した。これは、近世前期における対馬藩の海漁政策の概要を示すと共に、対馬藩漁業関係史料目録として利用可能な内容となっている。なお、元禄10年以降についても引き続き作業を進めて公表する予定である。 また、東京大学史料編纂所所蔵「宗家史料」の天保期以降の「藩庁毎日記」の調査を8月・12月・2月の三度にわたって実施し、昨年度に引き続き幕末期の対馬藩の海漁政策の変遷を把握する作業を進めた。一方、対馬との比較対象となる五島の漁業関係史料についても、昨年度に続き五島観光歴史資料館で史料調査を実施し、対馬藩とも関係する鮪大敷網の発展や泉州佐野漁民の入漁に関する関係史料の収集を完了した。 以上の調査を踏まえた研究成果として「宝暦・天明期における対馬藩海漁政策の変容-鮪大敷網の導入を中心に-」という論文をまとめた。この論文では、大型定置網漁法である鮪大敷網の対馬への伝播・受容について分析したが、その過程で対馬藩の海漁政策が、財政補填を目的とした他国網の積極的入漁策へと転換したことを明らかにした。なお、本研究では提起しながら未完に終わった課題が少なくないが、基礎的な史料収集はほぼ完遂できたので、今後は論文公表に向けて取り組みたい。
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