本研究は、対馬藩の漁業史について、近世全期にわたる史料を分析することで再検証し、新たな対馬漁業史の解明を目指したものである。本研究では、対馬藩政文書および関係史料の悉皆調査を行い、対馬藩漁業史研究の基礎データの収集をほぼ完了した。これにより、従来の研究史では手薄だった近世初中期の対馬漁業の実態を解明が可能となり、通説とは異なる新事実をいくつか析出した。例えば、18世紀半ば以前には対馬島民の漁業権は一定程度保護されていたが、安永・天明期頃からの藩財政窮乏にともなって他国漁民の入漁が優先されるようになり、島民の漁業権が後退していったことなどを明らかにした。
|