研究課題/領域番号 |
26370794
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
田中 健二 香川大学, 教育学部, その他 (30128045)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 近世 / 高松 / 城下町 / 治水 / 開発 |
研究実績の概要 |
国立公文書館において、二度にわたり、課題に関する資料の閲覧と撮影を行った。最大の成果は、同館蔵「正保国絵図」写本の閲覧である。本写本は、美濃岩村藩主松平乗命旧蔵本の一部であり、讃岐国絵図を含んでいる。本絵図はこれまで、県内外の研究で用いられたことがなく、貴重なものである。巨大な絵図であり、写真は必要な箇所のみの撮影にとどまらざるを得ないので、『近世絵図地図資料集成 第Ⅰ期 第16巻正保国絵図・西日本篇』(科学書院)を購入し、従来から知られている讃岐国絵図の諸本との比較検討を開始した。ほかに、高松松平家に関する歴史書の同館蔵「盛衰記」を閲覧し、必要箇所の撮影を行った。 県内の機関においては、香川県立ミュージアム、同文書館、同瀬戸内海歴史民俗資料館及び公益財団法人鎌田共済会郷土博物館において資料調査を行い、撮影した写真をもとに「盛衰記」諸本の校合、同書を批判した「暑消漫筆」の翻刻と内容の分析を行った。また、県立文書館所蔵の「高松城下図」(仮称)及び鎌田共済会郷土博物館所蔵の「讃岐国高松地図」(摸本)の調査を行い、作成年代を明らかにした。 以上の研究成果については、論文にまとめ、発表するとともに、一般市民向けの歴史講座で講演を行い、地域へ還元した。論文は、「小神野与兵衛著『盛衰記』と中村十竹著『暑消漫筆』について」(『香川大学教育学部研究報告』)、「香川県立文書館所蔵高松城下図(仮称)の製作年代について」(『香川県立文書館紀要』)、「『讃岐国絵図』に見る『古・坂出湾』の港と浦」(坂出市史研究)の3本であり、いずれも課題に関わる内容のものである。講座は、香川大学サテライトセミナー5回、かがわ長寿大学2回ほか2回であり、おもに高松城下町の建設と拡大、丸亀城下町の建設と特色、近世初期の讃岐国における開発の展開について講演を行った。受講者は延べ500名の多数に上った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
県外の資料所蔵機関への出張は、国立公文書館(2回)にとどまったが、「正保国絵図」讃岐国や「盛衰記」を閲覧することができ、得るところは大きかった。 県内の機関では、上記のとおり、香川県立ミュージアム、香川県立文書館、香川県立瀬戸内海歴史民俗資料館、公益財団法人鎌田共済会郷土博物館において、調査を行い、「盛衰記」諸本及び「消暑漫筆」についての大概を明らかにすることができた。また、その過程で、これまで未紹介の香川県立文書館所蔵の「高松城下図」の所在に気付いた。 研究協力者の御厨義道と共著で、論文「小神野与兵衛著『盛衰記』と中村十竹著『暑消漫筆』について」を作成し、公刊した。内容は、両書の成立と伝来、松平頼重期の高松城下町と新田開発に関する記事の抄録、松平氏入部後の新田開発と高松城下沿海部における海岸浸食である。 また、論文「香川県立文書館所蔵高松城下図(仮称)の製作年代」を作成し、公刊した。内容は、香川県立文書館所蔵の高松城下図について鎌田共済会郷土博物館所蔵の摸本「讃岐国高松地図」との比較を行い、両絵図は、水戸徳川家本家以外から迎えられた松平頼恭が高松藩主となった元文4年(1739)から程ないころに製作されたものであることを明らかにした。そのほか讃岐国絵図諸本の分析により、坂出市域の近世初頭の地形を復元し、論文「『讃岐国絵図』に見る『古・坂出湾』の港と浦」を作成した。本紙については本年5月刊行予定である。これらの研究成果については、別刷を日本史研究者へ配布するとともに、一般市民の利用を図るため、公共機関へ寄贈した。 本年度は、従来からの所属機関において、非常勤の特命教授を務めて、業務は大学院・学部の授業の担当と学生への教育研究指導に限定されているので、研究課題の達成に当てる時間が確保できた。そのため、研究はおおむね順調に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
資料調査については、県外の資料所蔵機関への出張は、東京大学史料編纂所での研究課題に関わる論文・研究書等の閲覧にとどめ、おもに県内所在の丸亀旧城下町に関する資料の調査を行う。丸亀市立資料館の協力を得て丸亀城および城下町の絵図を収集し、城下町の建設と周辺地域の開発について検討する。 現地調査については、生駒氏により築城された丸亀城の城下町とその周辺地域について実施する。丸亀城の場合、城主が生駒氏、山崎氏、京極氏と変遷していることから、城下町も当初の姿から大きく変化していることが予想される。 論文作成の予定は以下のとおりである。まず、香川県立文書館所蔵の「高松城下図」についての調査の過程で、近年、香川県立ミュージアムが購入した「讃岐国高松地図」が、鎌田共済会郷土博物館所蔵の「讃岐国高松地図」(摸本)の原本であることが判明したので、比較検討することにより、原本から得られる情報を論文にまとめる。次に、丸亀城下町とその周辺地域の開発について、資料調査と現地調査の成果をもとに論文にまとめる。 最後に、国立公文書館所蔵の「正保国絵図」讃岐国と従来から知られている「讃岐国絵図」諸本との内容を比較検討し、情報の整理を行い、これまでの研究成果と合わせて、近世初期の讃岐国一国においての開発と治水の様相を論文にまとめる。 本年度内に、書下ろしの論文を含めて研究課題についての研究成果報告書を作成し、公刊する。本年3月、特命教授の任期を終えたので、本年度は名誉教授として研究に従事するので、研究に当てる時間は十分である。
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次年度使用額が生じた理由 |
協力者への謝金として50000円を計上していたが、県職員としての立場上、無償での協力となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度も状況は変わらないため、謝金については物品費・旅費として用いたい。
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