近代日本における宝石珊瑚の史的研究

2015 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 26370796
• 研究機関: 高知大学
• 研究代表者: 荻 慎一郎 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 教授 (60143070)
• 研究期間 (年度): 2014-04-01 – 2017-03-31
• キーワード: 宝石珊瑚 / 日本近代 / 許可漁業 / 珊瑚漁業史 / 珊瑚貿易史

研究実績の概要

近代日本の宝石珊瑚製造漁は世界一の漁獲量があった。製造・加工業の盛んなイタリアでは、その原料の9割以上が日本から輸入した珊瑚樹であった。近世日本では、珊瑚加工製品は輸入品であり、長崎を経て国内各地へ売られた。それが近代になって、高知県沖をはじめ、長崎県、鹿児島県ほかでも採取されるようになり、にわかに日本近海の特定海域が珊瑚漁漁場となる。これまで宝石漁と珊瑚の流通・貿易・国の珊瑚行政については、本格的な歴史研究はないので、本研究はその嚆矢に位置づけられる研究となろう。また、宝石珊瑚の漁場と採取拠点は黒潮流域の地域（黒潮圏）にあり、黒潮圏の歴史的生業の一つとして研究するものである。
近代日本の宝石珊瑚に関する史料の悉皆調査を期して、27年度は以下の史料調査を実施し、収集史料の整理と研究を進めた。
１、主要産出県のうち、高知県に関しては高知県水産試験場ほかにおいて高知県水産試験場事業報告書の調査収集を新たに進めた。また前年度に引き続き、長崎県に関して、長崎歴史文化博物館所蔵の長崎県庁文書の調査を実施した。
２、小笠原諸島（当時、東京府下）の戦前における珊瑚漁関係の史資料の調査と収集を進めた。東京都公文書館、小笠原村役場の所蔵文書について調査を実施した。
３、戦前は日本統治下にあった台湾の珊瑚漁に関して、史資料の調査と収集を実施した。国立台湾図書館（台北）、台湾海洋大学海洋文化研究所（基隆市）などで史資料を収集するとともに、蘇澳（現、宜蘭県）の現地調査も実施した。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

１、前年度に引き続き、長崎歴史文化博物館所蔵の長崎県庁旧蔵の水産課文書のうち珊瑚漁関係史料を調査し、写真撮影による収集を進めた。長崎県珊瑚漁業関係史資料は概ね調査収集したことになる。写真撮影した史資料はコピーして整理し、分析結果の入力および重要史料の翻刻作業を進めた。
２、高知県水産試験場事業報告書の所在調査を実施し、高知県水産試験場、高知県立図書館、国会図書館のデジタル史料等の珊瑚関係史料の収集を進めた。目下その整理を進めている。
３、小笠原諸島での宝石珊瑚漁は、1915年代から島庁の水産試験船での漁場探査がはじまり、1920年代から採取量の増加をみた。平成27年度は父島および母島の現地調査と小笠原村役場が収集した戦前の島庁水産試験場事業報告書、写真類など、珊瑚関係史資料の収集を進めた。
４、台湾では1924年から本格的な宝石珊瑚の採集があり、基隆では珊瑚漁ブームがおこった。平成27年度は、国立台湾海洋大学にて、文献や史資料について調査をし、また戦前に基隆・澎湖島馬公などと並んで、日本人の珊瑚漁が盛んであった蘇澳を訪ねて現地調査を実施した。台湾での調査は、現代の台湾での珊瑚漁と流通・加工に詳しい岩崎望氏（立正大学）中西三紀氏（高知大学）を研究協力者に加えて実施した。現在の台湾珊瑚研究者、漁業関係者から聞き取りと関係文献を収集した。

今後の研究の推進方策

１、沖縄県の珊瑚関係史資料の調査収集を実施する。沖縄県水産海洋技術センターにおいて「沖縄県水産試験場事業報告書」を調査する、沖縄県公文書館や沖縄県立図書館、沖縄県庁水産課等において、宝石珊瑚漁関係の史資料や統計書を調査する。
２、鹿児島県の奄美大島の珊瑚関係史資料の調査収集を実施する。戦後奄美関係の宝石珊瑚の資料が鹿児島県立図書館奄美分館に架蔵されており、これを調査する。
３、台湾の戦前における宝石珊瑚関係の史資料の調査収集を進める。史資料では「台湾日日新報」の珊瑚関係記事の収集、「台湾総督府統計書」「台湾水産統計」など統計資料の収集を進める。
４、研究成果のとりまとめと発表を進める。

次年度使用額が生じた理由

平成27年度には、沖縄県の珊瑚関係史資料の調査と収集を実施する予定であったが、実施できなかった。このため、次年度にこれを使用する予定である。

次年度使用額の使用計画

平成28年度に、沖縄県における珊瑚漁業の歴史について調査と史資料の収集を進める。沖縄県水産海洋技術センター、沖縄県公文書館、沖縄県庁水産課、宮古島市役所等において調査を実施することにし、これに使用する。