研究課題/領域番号 |
26370813
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
西川 広平 中央大学, 文学部, 准教授 (60574150)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 災害史 / 噴火 / 雪崩 / 富士山 / 宝永噴火 / 信仰 |
研究実績の概要 |
本研究は、前近代における自然災害の発生とそれへの対応に関して、当時の社会が災害をどのように記録化し、または伝承や信仰の中に災害の影響を反映してきたのかを、古代・中世から近世にかけて甲斐国で発生した噴火・土石流災害、水害を中心に考察することを目的とする。特に宝永4年(1707)の富士山宝永噴火を主な対象として研究している。 平成29年度には、宝永噴火に関する記載がある①「伊東志摩守日記」と②「入目録」の2件の実物史料を調査した。宮崎県立図書館に収蔵されている①は、日向国飫肥藩主伊東家の分家である幕府旗本の伊東祐賢の日記である。日記の中で宝永噴火の記載がどのような位置を占めるのかを考察するため、今回は史料全体を実見した。この結果、宝永噴火の記載の直前には飫肥領で10月4日に発生した地震・高汐災害に関する記載があり、災害への関心が高まる中、11月23日に発生した宝永噴火について詳細に記載されたと考えられる。 続いて伊能忠敬記念館に収蔵されている②は、下総国佐原の名主伊能景利が収集した奇石の目録であり、宝永噴火に際して、景利が佐原で採集した降灰について記載されている。調査の結果、湯殿山や那智など修験の霊場で廻国聖によって奇石が取集されたこと、また景利自身も西国や四国の巡礼を行う最中に奇石を収集したことを確認した。宝永噴火の降灰の採集も修験の拠点であった富士山信仰との関わりで行われたと考えられる。 また報告書の刊行に向けて、論文「戦国期の地域寺社における井堰築造と景観―甲斐国 窪八幡神社を対象にして―」を執筆するとともに、過去の調査データの補足や古文書の翻刻作業を行った。そこで報告書の刊行準備を始めたところ、1月23日に草津白根山が噴火した。群馬県には中世以降に富士山信仰が広範に伝播し、赤城山や浅間山を本研究の対象としたが、草津白根山を新たに加えるため、研究期間の延長を申請し承認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査成果を反映する報告書の刊行に向けて、研究期間中に複数の論文を執筆し学術雑誌に掲載したほか、調査した古文書を活字化する翻刻作業や調査データの目録作成も予定どおりに進展している。また報告書の構成等も既に検討し終えた段階にある。このように、本年度における当初の計画に基づく本研究の状況は、2017年12月段階において概ね予定どおりに進捗していたと判断される。 しかしながら、2018年1月以降、当初の研究計画には反映していなかった草津白根山の噴火災害の歴史を研究対象に加える目的で、研究期間の延長を申請して承認されたことをふまえ、新たな研究対象に対応するために調査の追加など、当初の研究計画を変更する必要が生じている。また、それに合わせて報告書の構成等も改めて再検討することとなり、そのために編集作業を一時中断して再調整することとなった。 以上のとおり、新たな研究対象にかかる作業への対応にともない、現段階においては、当初の進捗状況にやや遅れが見られる状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
今回、新たに調査対象に加えた草津白根山の噴火災害に関する記録を確認・実見するために、2018年6月までに情報の収集を行ったうえ、2018年9月までに関連資料が収蔵されている群馬県立文書館等の関係機関へ調査に赴くことを計画している。 ここまでの作業が終了した後、2018年11月までには新たに得られた調査データの整理・分析を実施するとともに、これまでの研究期間中に作成した富士山宝永噴火等の調査データとの照合や比較検討を行う予定である。 そして2018年12月以降には、新たな研究対象に対応するために2018年1月段階で一時中断していた、これまでの研究成果を反映した報告書の編集・刊行作業に再度着手することとし、2019年3月末までに報告書の刊行を終了する見通しで、2018年度における今後の研究を推進していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今回、新たに追加を申請して承認された研究対象(草津白根山の噴火災害)にかかる調査を2018年度に実施するための経費を確保する必要性から、2017年度に支出を予定していた物品費・旅費等の経費の一部を2018年度に繰り越すこととした。 また、研究期間の最終年度に刊行を予定している、研究成果を収録した報告書の編集・印刷に要する経費についても、新たに追加した研究対象にかかる調査データを反映させて報告書を刊行するため、2018年度に繰り越すこととした。 以上の理由により、次年度使用額が発生することとなったが、①研究内容に関係する専門書の購入等に要する物品費、②調査に要する旅費、③調査データの整理に要する消耗品費、④報告書刊行に要する印刷費等として2018年度に適正に支出することとし、より充実した内容で研究成果の発表が行われ、本研究の成果を社会に還元できるよう努めていく。
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