平成28年度前半には、前年度までに構築した文献研究によるデータベースに基づき、文献研究とエジプト調査から得た情報を分析し、ファーティマ朝支配下のエジプトのアルメニア人の政治的・軍事的・社会的影響力とその背景となった彼らのネットワークについて研究を進めた。その中から、他のマイノリティ・ネットワークと比較検討する必要性を認識し、シリアの十字軍国家内のムスリム及び現地キリスト教徒、イベリア半島におけるユダヤ教徒やムデハル・モサラベを取り上げることにした。先行研究も豊富で、文献研究は既に漸次行っていたので、現地調査を中心に研究を進めた。平成28年度8月に、イスラエルにおいて、十字軍時代にフランク人荘園があったと考えられている農村部と、マイノリティ・ネットワークの地政的要となる港湾都市の実地検分を行い、「聖墳墓教会文書」などの文献資料との比較検討を行った。また、12月から平成29年1月にかけて、モロッコにおけるユダヤ人街、スペインにおけるユダヤ教徒・ムデハル・モサラベ関連の史跡の現地調査を行った。以上の研究を総括して、9世紀から13世紀にかけての東地中海世界におけるマイノリティ・ネットワークに関する包括的考察を行った。その成果は、平成28年11月13日に慶應義塾大学で開催された日本オリエント学会大会の研究発表「アッバース朝期(9-10世紀)におけるahl al-dhimmah規定の明文化の背景とその後の展開」及び平成29年1月28日に同じく慶應義塾大学で開催された第1回パレスティナ考古学研究会の研究発表「十字軍関連史料におけるBeitin/ Bethel」として口頭発表した。現在は論文・共著として刊行する準備を進めている。
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