研究実績の概要 |
本研究課題は、20世紀初頭の中国政治史について理解を深めるために、皇帝と大総統の地位をめぐる政治的な論理、制度設計や文化的葛藤について考察してきた。このことは、辛亥革命から袁世凱政権に至る時期に起こった様々な現象、たとえば袁世凱が皇帝になろうとして失敗した経緯などについて、これまで以上に説得力ある解釈を示すことに資するものである。 具体的には、まず、中華民国初年に袁世凱政権の顧問をつとめたアメリカ人政治学者フランク・グッドナウ(Frank Johnson Goodnow, 1859-1939)の模索を通じて、当時の憲政をめぐる争点に迫ることをめざした。それを通じて、グッドナウが中国の民主化の可能性をいかに考えていたのかという点に留意しながら、彼の体制構想について一貫した論理を見出すことができた。加えて、なぜ彼が帝制への移行を示唆するような論説を書いたのかという古典的な問題についても、彼が当時置かれていた顧問という立場の困難さから、一定の理解を可能とするに至った。 最終年度においては、中華民国初年の大総統就任儀礼に注目し、その正統性のあり方について考察を行った。そのなかで、袁世凱の中華民国政権が解決し難い難問に直面してきたことを示すことができた。彼は、二種類の正統性を得ていた。一つはかつての清朝からの委任に由来し、もう一つは南京政権によって作り出されたものである。確かに、ときには彼はこれらを利用して自己の政府を正統化することができたとしても、二つの正統性はそもそも相反するものであった。この矛盾が、袁世凱政権を正統性の危機へと導くことになったのである。
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