研究実績の概要 |
地方法典が生み出されるに至った背景として、唐末から宋初の敕、格敕、敕令格式などが生まれてくる過程を、個々の条文の変化・受け継がれに即して明らかにした。また、この時代を17世紀に始まる近世以前の時代の制度的な特徴と捉えることにより、ことに近世論においても進展があった。これらの結果を、5月4日中国・上海師範大学における中国語単独講演2回、6月10日韓国・慶北大学校法科大学における英語講演、8月2日台湾大学における中国語研究発表、8月9日日本・明清史研究夏合宿における日本語コメント、10月22日台湾・中央研究院台湾史研究所における中国語単独講演、10月23日台湾・中央研究院台湾史研究所におけるシンポジウムでの中国語発表、3月15日台湾大学における中国単独講演において発表し、意見交換を行った。また3月に論文集(共著)を一冊編集・出版した。 ことに、時代論としての近世については、従来、内藤湖南以来宋代を近世とする説が宋代史研究者の間において強かったが、1990年代のS. Subramanyam, A. Reid, V. Libermanらの研究を参照し、岸本近世論を補強する方向で宋代史を見直した。 またこうした過程を、J. H. Elliott, Randolph Starn, Theodore K. Rabbらの17世紀危機論、R.Huttonらの中世論、ケンブリッジ大学のPhil Withington, William Johnsonらの近世論とすり合わせることによって、Early Modern, Fruehe Neuzeit, Fruehmoderne,「近世」といった語の穏当な利用法について多角的に見当を行い、地方法典の生み出された宋代は近世とも中世とも古代とも何とも言えない時代であることを明らかにした。
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