従来、前近代西アジアの諸国家においては多様な民族が緩やかに統合されていたとされてきたが、民族的な違いがどのような政治的・社会的な意味をもったのかについては関心が向けられることがなかった。その理由の一端は、前近代西アジアの国家にあっては普遍的宗教たるイスラムが統治理念として機能していたがゆえにムスリムである限り民族的範疇はさしたる意味をもたなかったと理解されてきたことにある。本研究では、前近代西アジア社会においても民族的な差異が意識されていたことや、政策的にもそうした差異を前提に統合が図られていたことについて実証的に明らかにすることができた。
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