研究課題/領域番号 |
26370833
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
石黒 ひさ子 明治大学, 政治経済学部, その他 (30445861)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 墨書陶磁器 / 墓誌罐 / 寧波 / 博多 / 経筒 / 貿易陶磁器 |
研究実績の概要 |
平成27年度には明治大学・中国社会科学院主催の「中日交流与中日関係的歴史考察」学術シンポジウム(第五回)で「墓誌罐と経筒(越窯罐与日本出土的経筒的比較」の学術報告を行った。墓誌罐と日本出土の経筒を経幢の存在にも着目して比較した論考であり、当該報告の内容は研究論文として公表準備中である。また明治大学日本古代学研究所墨書・刻書土器データベースに中国江蘇省鎮江出土墨書唐陶磁器データを公表した。墓誌罐資料・鎮江墨書陶磁器データは27年夏期に行った中国南京・寧波・慈渓等の調査の成果である。墓誌罐は慈渓市博物館・余姚博物館愛で実見調査を行い、特に慈渓市博物館厲祖浩氏には詳細な出土状況や資料の特徴を教示していただいた。また鎮江墨書陶磁器データは南京大学歴史学院賀雲翱教授の協力によるもので、賀氏の日本滞在時には京都・大阪・東京・福岡(博多遺跡)等の現地調査に同行し多くの教示を得た。特に博多出土の貿易陶磁器については、従来指摘されている浙江省龍泉窯や福建省同安窯の他に江蘇省宜興窯の製品が一定数含まれているという指摘があり、貿易陶磁器の生産・流通および陶磁器の墨書との関係において大きな示唆を得た。 経筒と貿易陶磁器の研究については、岩手大学平泉文化研究センターの菅野静寛氏、劉海寧副教授とも意見交換を行い、平泉文化研究センター主催の国際シンポジウム「平泉と東アジアをつなぐ-貿易陶磁器にみる交流の様相-」に参加し、当日は会場通訳の一端も担った。このシンポジウムでは国内の中国陶磁器研究者の多くと意見交換しただけでなく、中国山東省・上海市・浙江省・福建省から来日した現地の陶磁器発掘に関わる考古学研究者と積極的な研究交流を行い、現在進められている考古学発掘における墨書陶磁器出土について、多くの情報を得ることができた。これらの地域については平成28年度に実見調査と資料収集を実施の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度には寧波での墨書陶磁器調査を実施し、まとまった墨書陶磁器の発見はないことが判明した。寧波と密接な関係にある博多遺跡に多量の墨書陶磁器が出土している点との比較においても、興味深い事象である。寧波に隣接する浙江省慈渓市博物館では墓誌罐の調査を行った。墓誌罐は唐代後半から宋代に越窯周辺でのみ流行した、陶磁器による立体的な墓誌である。墓誌罐の造形は九州出土の陶製経筒に非常に相似するものがあり、経筒と墓誌罐の比較も行った。調査から墓誌罐は容器としての機能がなく、経筒とは性格が異なることが判明した。これについては中国社会科学院と明治大学の日中交流シンポジウムで報告を行った。この際、社会科学院考古研究所より長安(西安)、洛陽の都市遺跡発掘時の墨書陶磁器資料について情報を得た。また南京大学文化与自然遺産研究所を通じて江蘇省鎮江出土の墨書陶磁器について調査を依頼し、写真データの提供をうけた。この資料はデータベース化し、明治大学日本古代学研究所墨書・刻書書土器データベースに公表した。また南京大学歴史学院賀雲翱教授とは、東京・京都および博多で実見調査を含む学術交流を行い、多くの新たな知見を得ることができた。 以上の調査交流等を通じて、墨書陶磁器が中国各地で報告されていることが判明した。山東省板橋鎭遺跡、上海青龍鎭遺跡、浙江省杭州市、福建省福州市の港湾遺跡・都市遺跡から墨書陶磁器が出土している。28年3月には岩手大学平泉文化研究センター実施のシンポジウム「平泉と東アジアをつなぐ-貿易陶磁器にみる交流の様相-」に参加し、シンポジウム当日には通訳の一端も担った。平泉文化研究センターのスタッフおよび山東、上海、浙江、福建から来日した現地の専門家と学術意見交換を行った。28年度にはこれらの地域で続々と発見されている墨書陶磁器についての実見調査および資料のデータベース化を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
27年度には日本出土の経筒と中国浙江省出土墓誌罐の比較について学術報告を行ったが、これに加筆して研究論文として公表する予定である。また国内外の調査によって、日本国内では福岡、岩手(平泉)の研究者との学術交流、中国では当初より調査協力を依頼してきた南京大学に加えて、山東、上海、浙江、福建の研究者や中国社会科学院考古研究所(西安・洛陽発掘者)とのを図り、調査協力の依頼が可能になっている 山東省板橋鎭、上海市青龍鎭、浙江省杭州市、福建省福州市や中国社会科学院考古研究所によって発掘中の陝西省西安市隋唐長安城遺跡・河南省洛陽市洛陽城遺跡ではいずれも墨書陶磁器が出土し、その多くがなお未発表の状態である。また、板橋鎭、青龍鎭は港湾施設や貿易関連施設のあった場所であり、杭州市や福州市、長安城、洛陽城はいずれも都市遺跡である。墨書陶磁器について、これまでの調査および情報収集から、一つの遺跡からの出土数とこれまでの整理状況は日本福岡の博多遺跡がいずれも群を抜いた存在であることがわかっている。博多は日本を代表する貿易港遺跡であり、博多出土の墨書陶磁器は中国各地から出土するものと、時期を同一にするものも多い。また博多と中国各地の比較は、陶磁器の生産地、貿易中継地、消費地といった観点からも重要なものである。日本への貿易陶磁の生産地としては浙江省龍泉窯や福建省の陶磁器が知られているが、その他に江蘇省宜興窯も注意が必要である。 この比較や生産と流通という観点も視野にいれて、28年度には山東省、上海市、浙江省、福建省、江蘇省また西安市・洛陽市等、また日本国内では福岡博多、岩手平泉および南九州地域での墨書陶磁器調査および学術交流・意見交換を実施する。調査後は調査地域の墨書陶磁器資料のデータベース化および陶磁器の生産から消費への流通経路、史料としての墨書陶磁器の可能性について、研究成果の発信を行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度には江蘇省南京市・浙江省寧波市等中国調査、福岡県福岡市(博多遺跡)、岩手県平泉での国内での調査、北京での学術報告を実施した。これらの調査や報告を通じて中国での墨書陶磁器の出土情報を収集した結果、陝西省西安(長安城)、河南省洛陽、山東省板橋鎭、上海市青龍鎭、浙江省杭州、福建省福州での新発見の墨書陶磁器が出土している状況が判明した。上記遺跡の発掘関係者と意見交換を行い、28年度における調査が可能となった。福州では墨書陶磁器の出土数が多く、関連する遺跡も多いため余裕のある調査日程を必要であり、杭州でも出土地の確認に時間のかかると想定される。28年度に調査可能となった地域が多く、調査時間もからも費用が多く必要であるため、27年度の費用の使用については極力省力化し、一部を28年度の当該地域の調査、および資料のデータベース化に充当できるようにした。次年度使用額はその結果として生じたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
上記理由の通り、中国陝西省西安市(長安城遺跡)、河南省洛陽市(洛陽城遺跡)、山東省板橋鎭(港湾・貿易拠点遺跡)、上海市青龍鎭(貿易拠点遺跡)、浙江省杭州(都市遺跡)、福建省福州(都市遺跡)、および江蘇省南京と宜興市(窯遺跡)等南京周辺での資料実見調査・関連遺跡調査を予定している。都市遺跡、港湾・貿易拠点遺跡から出土した墨書陶磁器調査およびその生産地である窯遺跡の調査を中心とする。この調査進展に合わせて福岡博多遺跡、岩手平泉遺跡、また南九州の貿易陶磁関連遺跡についても必要に応じて調査を実施する必要がある。これらの調査を通じて、獲得できた資料データをデータベース化し、それによって貿易陶磁器の生産・中継・消費のルートと陶磁器上の墨書の関係の解析を行うことが可能となる。これらの調査費用、および収集した資料のデータベース化等研究成果を公表するための費用として27年度分に生じた次年度使用額を使用する。
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