平成26年度から5カ年計画で遂行してきた本研究は、スンナ派の形成と浸透の歴史過程を明らかにすることに向けて、10-13世紀の西アジアで「ハディース(預言者ムハンマドの言行に関する伝承)」の徒」と称し、ハディースを用いて社会の様々な事柄をスンナ(預言者ムハンマドの慣行)に根拠づけたハディース学者 の知的実践を社会史的に解明することを目的としている。本研究では、この目的に向けて以下の3つの課題を設定した。すなわち、【課題1:「ハディースの徒」の時代的・地理的分布の傾向の整理】、【課題2:ハディースの真正性判定理論の形成・展開の解明】、【課題3:「ハディースの徒」の知的実践と社会状況の相互影響の解明】である。 平成30年度までの5年間で、上記の3課題に関する研究作業を完了し、以下の3点を明らかにした。(1)「ハディースの徒」を称したウラマーたちが、知識人としての評価を得るために行った知的実践の成果を用いて、周囲の社会的・政治的要請にも良く応えていたこと。(2)そうした社会や政治に対する協力的な姿勢が、彼らの社会的権威にもつながっていたこと。そして、(3)社会や政治の多くの側面を、ハディースをとおしてスンナに結びつけようとする彼らの姿勢と活動が、スンナに則った共同体の一員と自らを想像する人々、すなわち、スンナ派の形成に大きく貢献したと考えられることである。 1年間の延長期間であった令和元年度は、本研究の成果を内外の研究者に紹介し、本研究の作業を通して構築した「ハディースの徒」の経歴・著作などを整理したアラビア語のデータベースを公開するために、アラビア語と日本語のウェブサイトを開設した。また、本研究を基課題とした国際共同研究(16KK0043)の成果も盛り込むことで研究全体の総括作業より精緻に進め、英語の学術論文・単著として発表する準備も進めた。
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