研究課題/領域番号 |
26370846
|
研究機関 | 長野工業高等専門学校 |
研究代表者 |
久保田 和男 長野工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (60311023)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 国城 / 開封 / 臨安 / 城壁 / 瓦子 / 周礼 |
研究実績の概要 |
本年度は、北宋開封の多重城郭制(3重)と南宋臨安の多重城郭制(2重)の検討を文献学的に実施した。その上で両者を結果をもって比較史の手法による検討を実施し以下のような結論を得た。 開封の3重目の外郭城は「国城」ともよばれ、礼制上の都城の範囲を表すものであったが、それ以上に防衛上の重要な城壁であった。都城史上初めて甕城が設けられた。その中には100万人をこえる市民が居住していた。北宋政府は、市民との融和を演出する祝祭を通じて政治的な正当性を強化しようとした。外城は堅固に作られ上下と一体となった防衛戦も可能となった。それが靖康の変である。逆に旧城とよばれた内側の城郭は、崩壊する傾向がつづき、城内の空間的な一体性は強まったといえる。 一方、南宋の臨安では、京城・国城といわれる外城壁があったが、これは北宋時代以前のものを都城の外城壁としたものであり、優れた要塞設備がなかったことがわかった。南の一部は、南渡後に拡張されて新築されたため、新城とよばれそれ以前の部分が旧城と称された。この京城壁の中に市民はすべて居住していたわけではなく、城外に市街地が広がっていた。その城外の市街地には瓦子や市場なども設置されていた。これらは開封では城郭内に設置され都城繁華の要素となったものである。南宋政権は、北宋政権とはことなり、城外に広がった市街地を新たな城壁で囲み防衛しようとは構想していない。そこに両宋間の変化が認められるのである。 その変化の背景はどこにあるのかという点についての考察は、次年度(平成27年度)の検討事項ということになる。初歩的な考察では、周礼的な高城深池を理想とした新法政治の否定としての南宋政権の政治文化を反映しているものではないかと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた8月の中国宋史研究会では、「南宋臨安国城私論」と題して臨安の都城空間の問題ついて報告した。同月、杭州の臨安城の遺構の調査とハルビン郊外の金上京会寧府の遺構調査を実施した。12月、予定にはなかったが、関西比較都市史研究会で報告を依頼されたので、中国都城史の画期としての開封の特徴を多重城郭の問題として析出して報告した(第20回研究集会)。論文は一編を、宋代史研究会研究報告第十集に寄稿済みであるが、本年度中には校正に着手することができずにおわっった。他の執筆者の原稿提出や編集作業の遅滞が原因である。また近年刊行された若手研究者の宋代政治史をめぐる専門書の書評を2本依頼されたので応諾し、研究計画の一環に加えて執筆した。書評の執筆によって新しい政治史の研究動向や問題意識を知ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
本来の計画では、開封と金の上京・中都・南京、南宋臨安の都城空間の比較検討から都城史の再構築をはかることがであるが、遼の中京にも開封の都城空間の影響が見られることが、最近になってわかった。遼の中京が建都されたのが1035年であるが、ほぼそれと同時期に、大越の李朝が昇竜城を建設しており、おそらくそこにも開封の影響があるようにおもわれる。したがって、本研究において、この問題もふくめて考察を深めることになる。このような分析を通じて、東アジア世界における開封都城計画の普遍性を想定することが可能といえる。とすると、本計画では、次年度以降西夏の興慶府についても関連性を考えるべきなのであろう。あるいは、本計画の後続研究計画にての展開となるかもしれない。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度、刊行予定の共著図書が、他の共同執筆者の研究進展や編集作業の遅れから出版されず、校正作業も次年度に持ち越しになったことから。 1,図書名は『日本古代宮都と東アジアの複都制』青史出版より刊行予定。研究代表者執筆予定部分「五代北宋における複都制-都城洛陽の終焉」 2,図書名は『宋代史研究会研究報告第10集 中国伝統社会への視角』。研究代表者執筆部分「北宋開封における多重城郭制と都城社会の変容-比較都城史の観点から」
|
次年度使用額の使用計画 |
1,『日本古代宮都と東アジアの複都制』青史出版より刊行予定。研究代表者執筆予定部分「五代北宋における複都制-都城洛陽の終焉」 2,『宋代史研究会研究報告第10集 中国伝統社会への視角』。研究代表者執筆部分「北宋開封における多重城郭制と都城社会の変容-比較都城史の観点から」 の校正作業、編集作業をを2015年度に実施することになるが、その関連図書や必要機材の購入を予定している。
|