研究課題/領域番号 |
26370846
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研究機関 | 長野工業高等専門学校 |
研究代表者 |
久保田 和男 長野工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (60311023)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 開封 / ユダヤ人 / 中京大定府 / 多重城郭制 / 比較都城史 |
研究実績の概要 |
「交付申請書」「研究実施計画」の平成26年度以降の研究計画においては、開封の要塞設備(甕城)が中国都城史上初めて開封に設置されたことに注目して、新たな都城史の展望を開くことが計画されている。平成27年度においては、この計画に従って、河南省開封市を訪問し甕城の遺蹟(新鄭門)の発掘状況の調査を実施し、その進捗状況について確認することができた。 研究業績としては、学術論文「北宋開封における多重城郭制と都城社会の変容―比較都城史の観点から―」を『宋代史研究会研究報告(10)中国伝統社会への視角』 汲古書院 2015を発表することが出来た。これは前年度における多重城郭制の比較都城史的な研究の成果の一端を斯界に問うたもので大きなインパクトが期待できる。また、東洋史研究会よりの依頼で、一本の書評を執筆した。「書評 藤本猛著 風流天子と「君主獨裁制」 : 北宋徽宗朝政治史の研究」『東洋史研究』 74巻 1号である。本科研において対象としている宋代社会への取り組みであったので、科研からの補助事業とさせていただいた。 報告は二件おこなった。「11から13世紀における東アジア都城史の可能性ー遼中京大定府を中心として」「第41回(平成27年度)宋代史研究会夏合宿」では、開封や長安と比較することによって、遼朝の都城のあり方を考える研究であり、今後の都城史の再構築にとって欠かせない研究成果といえる。・題目 「開封のユダヤ(猶太)人について」 「2015年度早稲田大学史学会全体会 公開シンポジウム「世界史のなかのユダヤ人」」である。この研究によって開封社会の多様性に改めて注目する必要を感じた。これは今後の本研究におけるバリエーションを広げることになるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度は、開封の多重城郭制について、都城社会との関わりをも視野に入れた研究を発表した。さらに、遼の都城中京大定府の多重城郭制の研究を開始し、学会報告をおこなった。この研究は、本年度、学術雑誌として学会誌に投稿予定である。中京大定府に見られる開封からの影響は、同じ1000年頃に建設された、ベトナム李朝のタンロン城にも見られることも判明した。このように一般的に長安について、東アジア世界への都城プランの影響が見られることが指摘されているが、開封についても限定的ながらそのような現象が見られることが判明した。これは研究計画において予期した以上の学術的な到達点である。
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今後の研究の推進方策 |
臨安の城郭について開封の多重城郭制との比較検討を進めて行く。臨安の首都性については、先頃、『尚書』に見える洛邑の祭祀機能に擬制することによって、宋人によって想像されているという研究に直面した。本研究の最終的な目的である、中国都城史の再構築のためには、この研究に一定の対応する必要が感じられた。したがって、本年は若干回り道とはななるが、宋代の洛陽と開封と臨安の関係性について、再検討をくわえる。それは、後周において確立した。開封の首都性を再確認するとともに、洛陽に対する宋人の考え方を再検討し、北宋の政治文化における『周礼』と『尚書』あるいは『春秋』をめぐる対立に関連づける作業となる。 昨年度は、開封で、宋代からつづくユダヤ人コミュニティーの調査もおこなった。様々な文献を入手して帰国後検討した結果、宋代以降の中国社会においては一君万民の理想のもとに社会とくに都市社会が展開したため、ユダヤ人の存在はあまり注目されないものとなり、ユダヤ人のグループも科挙官僚として栄達を望む中華世界の一員となって、徐々に宗教的な結合を失っていったことが明らかになった。これは、開封の都城社会を考えるに従来には注目されなかった視座であると思われる。宋代開封には、『東京夢華録』などによってゾロアスター寺院の存在が明らかになってはいたが、宋代=漢族国家と考えられており、『清明上河図』に漢族しか存在しないという見解もあって、開封も長安とは対照的な漢民族社会であると考えられている。実際には、北宋は沙陀突厥の軍閥から発展したもので、多民族国家であるはずである。それを超越した、科挙社会という側面をもった一君万民的な秩序が、開封と北宋には登場したのではないかという展望を得たのである。この展望も取り入れつつ研究を進めてゆきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定の図書の請求が間に合わなかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度購入予定だった図書の購入をおこなう。
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