研究課題/領域番号 |
26370846
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研究機関 | 長野工業高等専門学校 |
研究代表者 |
久保田 和男 長野工業高等専門学校, 一般科, 教授 (60311023)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 遼中京 / 大定府 / 比較都城史 / ユダヤ人 / 一君万民 / 洛陽 |
研究実績の概要 |
「研究計画実施計画」において本年度は金朝都城の城郭構造について検討する事になっているが、その方向性に沿った研究活動となった。北宋開封の従来の研究を基礎として、金の都城について比較都城史的な考察により、金上京と金中都の遷都と建設の問題を明らかにした。その成果は、29年度に学界に査読論文として発表する。 本年度の研究業績は、共編著『宋代史から考える』 汲古書院(担当:共編者, 範囲:序文・「宋代開封における公共空間の形成-宣徳門・御街・御廊-」pp.5-32)2016年7月である。「一君万民」という政治文化を可視化する空間として、開封の大内正南門前の空間を位置づけた。開封の正南門宣徳門から南に延びる御街と御廊の都城史的な位置づけが必要であることに注目している。「遼中京大定府の建設と空間構造-11世紀から13世紀における東アジア都城史の可能性-」『東方学』第133輯、2017年1月は、遼の中京建設における北宋開封の影響と、多民族国家遼の社会関係が、都城空間に反映したことによる、開封との違いについて比較都城史的な考察を行ったものである。開封の都城プランを参照して、中央宮闕型で南北中軸線街路をもち、中軸線の街路の両辺には、千歩廊を設けるなどひろく影響を受けている。 「開封のユダヤ(猶太)人について」『長野工業高等専門学校紀要』50号 2016年6月では、開封に宋代より居住するユダヤ人のコミュニティが、都市開封の盛衰に従ってその規模や伝統を推移させてきた歴史を跡づけた。 研究発表「後周の知開封府王朴の都城建設と宋代の洛陽問題」「第42回(平成28年度)宋代史研究会夏合宿」(箱根高原ホテル)2016年8月では、北宋において洛陽が都城史からフェードアウトするメカニズムを思想史的な転回から考える試みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、多重城郭制都城の検討による東アジア都城史の再構築である。昨年度は、遼の都城中京大定府の多重城郭制の研究を完成させ、論文として発表することができた。研究発表では洛陽の都城史上からの退場という問題を考え、洛陽中心の時代「洛陽時代」と元明清の「北京時代」という都城史の二つの枠組をを想定することになった。また洛陽時代の前の時代、すなわち秦・前漢の時代は、咸陽・漢長安城であるが、儒教的な都城とはことなった都城思想であったことが想定できた。また、開封ユダヤ人コミュニティの研究から、多民族制が、公的な史料に記される時代と、「一君万民思想」によって、華夷を超越した君民関係を設定する時代があることが分かった。特に内城外城の高さの違いによる、多重城郭制の検討によって、遼中京大定府では、外城における被支配民族の空間と、内城の支配民族の空間という分別が行われていたことが明らかになった。この成果をうけて、金の都城についての分析を行うことが次年度における課題といえよう。
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今後の研究の推進方策 |
「洛陽時代」と元明清の「北京時代」という都城史の二つの枠組をを想定したことにより、洛陽時代の終焉と北京時代の開始の中間時代として、開封・臨安・中都の都城史上の位置づけが重要な問題であることがより明確になった。後漢から北朝における「儒教国家」において洛陽奠都が理想であることから、その変容ととしての開封遷都、あるいは臨安・中都への都城の移動の正当性の論理などが注目される。「漢唐」儒学から「宋学」への転換におけるエートスあるいは政治文化の変容として都城問題を跡づける試みを継続して考えてゆきたい。 とくに次年度は、金の中都と南宋臨安の比較都城史的な検討を行う。そこから両都城の、都城史上における位置づけを再検討する。本科研費の研究計画は、中都の研究で終了となる。 本研究課題の研究活動を通じて、後漢からはじまる「儒教国家」の時代を「洛陽時代」として考えることになった。それ以前の、前漢や秦などの都城との前後関係を考える都城研究は管見の限りあまり無いようである。それは、儒教的な都城とはことなった都城思想であったことが想定できる。 また、金の中都がモデルとなり元の大都の構想となるようであるが、そこにどの程度の承継関係があるのかを確認する必要がある。儒教の枠組みとは異なった都城構想があった可能性もある。また、元では、上都・中都・カラコルムなどの都城が存在する複都制である。それぞれは、中国式の都城の空間構成やプランと等距離ではない。それらを相互比較することは北京時代へのプロローグとして重要なことである。ただし、この問題は、本研究計画の枠組みをこえた問題であり、次の研究課題である。本年度は、その研究への足がかりをえるために、金中都及び金代開封にたいする検討をしっかりと行ってゆきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度行う予定であった図書購入が、在庫切れ等の理由で行えなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度、最終年度であるため、まとめの予算として、次年度使用額をしっかりと使用し、研究目的を達成してゆきたい。
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