平成29年度の主要な研究成果は、『商業と異文化の接触 中世後期から近代におけるヨーロッパ国際商業の生成と展開』(川分圭子・玉木俊明編、吉田書店、2017年7月10日発行)において研究論文「18世紀前半フランス・ナントによるヨーロッパ沿岸貿易 リスボン貿易を中心に」を公表したことである。 この論文は、本研究期間全体の目標の一つとして掲げた<「伝統的な」ヨーロッパ沿岸貿易の実態解明>という課題に取り組んだ成果であり、「船舶艤装申告書」「教区簿冊」の網羅的な調査・分析と「公証人文書」の一部について調査・分析したものである。 同論文については、2017年11月に開催された国際商業史研究会において書評が行われ、丹念な史料調査を手がかりとした仮説の提示とその独創性が評価された一方、考察を深化させるためにはさらなる一次史料-例えば「会社設立文書」や「海上保険契約書」-の調査が不可欠であることが指摘され、今後の研究の道筋が示唆された。 以上のように、平成29年度は本研究計画で掲げた二つの課題①「伝統的な」ヨーロッパ沿岸貿易②「新事業としての」アンティル諸島直行貿易のうち、①に関する実証的研究成果の公表と批判的検証を実行できた一年であった。本研究では、1969年以降行われることがなかった網羅的な史料調査と整理をすすめ、記録情報を数量化することをつうじて、ナント海運業が包括する多様な事業分野を一つ一つ個別に検証することができた。また研究期間全体を通して公表した成果を批判的に検証する機会をもつことができたので、今後の史資料調査と研究全体の方向性-単著完成-にむけて具体的な計画を立て実行する基盤を得ることができた。
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