研究課題/領域番号 |
26370850
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋場 弦 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (10212135)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 紛争解決 / 和解 / 調停 / 民主政 / ギリシア |
研究実績の概要 |
平成26年度においては、古代ギリシア人の紛争解決方法として和解がどのような位置を占めていたか、とくに国家権力の暴力装置の助けを借りることなく、市民たちが自律的に和解の合意形成にあたった諸相を明らかにするべく、基礎的史料の網羅的収集と分析を行うことにつとめた。和解と調停というテーマは、古代ギリシア人にあってはすでにホメロス以来の重要な課題であり、ポリスの成立以前からギリシア人世界において普遍的なテーマであったことがわかる。とくにアキレウスが親友パトロクロスの復讐のためにヘクトルを殺害した後、父王プリアモスの和解の要請を受けてそれに応じる、という叙事詩『イリアス』最後のモチーフは、その後のギリシア人の心性を一定方向に導く役割を果たしたと思われる。悲劇作品においてもそのモチーフはくり返され、殺害と殺人の血の浄め、そして遺族との和解と調停は、文学作品の中に現れたギリシア人の価値観を反映する。おそらくこのような価値観は、ポリスの成立によって公共性との兼ね合いの中で洗練を経ていったものと思われ、たとえば紀元前7~6世紀に始まるいわゆる初期成文法の時代、とくにアテナイではドラコンの殺人の法の制定により、法制度の実質を獲得していったものと思われる。しかしながらこの段階にあっては、個々の殺人とそれに対する復讐もしくはそれにかわる和解と調停、という個人レベルの解決にとどまるのであり、国家レベルでの紛争とそれに対する和解という新たな段階には立ちいたっておらず、その段階に達するにはstasis(内乱)という大きな時代のうねりがポリス世界を覆うのを待たねばならない。それが次年度以降の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初分析対象として予定していた史料群、すなわち文学作品・悲劇作品はおおむねリサーチを終了し、さらに法典碑文としてゴルテュンの法典の分析にまで進展したので、ほぼ順調と言ってよい。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね計画通りに推進してよいものと思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたギリシャ共和国への調査出張は、同国および周辺中東諸国において、国際過激派組織IS(イスラム国)などの活動により、社会情勢が不安定となり、平成26年度中の実施を見合わせざるを得なかったため、次年度使用額が生じたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は碑文集の購入ないし国内出張などにより、次年度使用額分を順次費消する予定である。
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