研究課題/領域番号 |
26370852
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
菅 美弥 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (50376844)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 米国センサス / 人種 / マイノリティ / ローカルと連邦 / アメリカ / 「その他」 / 調査の実態 / 総合的な歴史像 |
研究実績の概要 |
課題1 建国期における「その他全ての自由人」をめぐるマイノリティへの調査の実態と管理に関連して、メリーランド州の「その他全ての自由人」のなかには世帯主が自由黒人女性で、奴隷の夫や子供が同居する家庭がみられたこと、自由黒人への調査実態は南部の州でも異なり、ときには厳しい監視のまなざしがセンサス調査にも表れたことを下記の通り学会で発表した。「米国センサスにおけるマイノリティへの調査実態」日本移民学会第24回年次大会 ラウンドテーブル「マイノリティと名指されること/名乗ること:移民・移住(史)研究の事例から」(2014年6月、和歌山大学) 次に、課題2 19世紀中葉以降の「カラー」・「人種」分類の変容と移民政策とのリンケージについても研究を進めた。境界や定義が曖昧であった「アジア」について、下記の発表を行い分担執筆の形で入稿した。「『オリエント』の包摂と排除:世紀転換期米国センサスのポリティクス」、移民研究会例会(2014年5月、津田ホール) 加えて、1870年以降、異人種間結婚をした日本人移民と家族の人種の記載についても研究を進めた。「ジャパニーズ」が公式分類となった1890年以降も、日本人が「ホワイト」と記載される事例を明らかにすることで、連邦が規定するホワイトネスの政治性とローカルのまなざしの対照性が浮き彫りになった。また、人種の記載は世帯主に従わず個人別に行われていたことも明らかになった。これらの点を検証した論文が6月に出版される。"Japanese Interracial Families in the United States, 1879-1900: What the Census Manuscript Population Schedules Reveal," The Japanese Journal of American Studies, 26 (2015).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、米国センサスにおいて公式の指示がないなかでのマイノリティへの調査実態と「その他」に対するまなざしについて総合的な歴史像を描くことを目的としている。時代区分としては、建国初期、19世紀中葉から20世紀初め、20世紀中葉から現代までの3つに分け「自由黒人」、中国人、日本人移民、ヒスパニックを主たる対象とする。平成26年度は、建国期のみに対象を限定せず、20世紀前半までを対象として、時代横断的に研究を進めることが出来た。その結果、建国初期の「その他全ての自由人」とは自由黒人(男性・女性双方)が主であったこと、自由黒人へのセンサス調査はサウス・カロライナ州など、地域によっては厳しい監視の場となり、細かな身分や属性の記録が行われたこと、一方で、自由黒人の側からも戦略的な名乗りの可能性があったことが明らかになった。 また、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、オスマン帝国からの移民(シリア人やアルメニア人等)のホワイトネスについては、帰化訴訟の結果とは異なり、センサス上で「その他」として位置づけられることもなく、一貫してローカルの調査員からは「白人」と記載され続けたことが明らかになった。 さらには、異人種間結婚をした日本人移民と家族の人種の記載について研究を進めるなかで、「混血」の子どもの人種の記載は、「非白人人種」とされる日本人世帯主に従うように20世紀初頭に変化したことが明らかになった。また「混血」の子どもが、1910年より再度導入された「その他」の人種項目のもとで分類された事例も明らかになった。 これらの点の解明のために、史料である膨大な数の手書きの調査票を、時代・地域を横断して徹底的に検証する作業とそのデータベース化に多くの時間を割いたが、ローカルな調査実態の総合的な検証には必須の作業であり、大量の史料収集とその検証が出来た点での達成度は自己評価として高いものである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策については、平成26年度と同様に、米国センサスによるマイノリティへの調査実態について総合的な歴史像を描くため、時代区分を限定して研究を進めることはせず、時代横断的に調査票やその他の史料を収集し検証することとしたい。膨大な調査票の収集には研究補助を依頼し効率的に行う工夫をする。 これまでの研究のなかで浮上した、マイノリティ側の自由黒人のなかには戦略的な名前の名乗りが見られたのではないか、との可能性については、南部諸地域の調査票その他史料との照合や先行研究を参考として継続して検証する。20世紀初頭の異人種間結婚を選択した日本人移民の「混血」の子どもたちが「その他」として位置づけられたことも、経年的に検証するほか、他の人種集団(例えば中国人)の異人種間結婚の事例にもみられたのか、比較的な見地から発展させていく。 また、課題2:19世紀中葉以降の「カラー」・「人種」分類の変容と移民政策とのリンケージ―の「ジャパニーズ」分類の誕生と移民政策とのリンケージについては、「アジア系」に対する移民政策全体像を俯瞰しつつ、連邦議会、センサス局などの連邦側の史料も収集し検証する。史料収集については議会図書館などのデータベースを有効活用する。 このほか、総合的な歴史像を描くため、また、20世紀中葉から現代までのセンサスにおける「その他」の現代史的展開を明らかにするため、今年度は、国際ワークショップの開催や日本アメリカ学会年次大会でのセッションの英語による共同発表を通じての研究推進に力を入れる。具体的には、アメリカ・センサス史の大家、ウイスコンシン大学ミルウオーキー校のマーゴ・アンダーソン教授と、米国商務省センサス局のデービッド・ペンバートン博士を招聘し、学会でのパネル発表や国際ワークショップでの発表と議論を通じて、「その他」に対するまなざしの過去・現在について理解を深めていく。
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