研究実績の概要 |
第二次世界大戦後のアメリカ優生学運動とその海外への伝播・発展過程を検証する本科研課題では、重点研究領域として、(1)ドイツの戦後処理とアメリカの関係、(2)アメリカ①:「帝国」領域における優生学的実践(プエルトリコ、グアム、フィリピン)、(3)アメリカ②:「帝国」領域における優生学的実践(日本(沖縄含む)、韓国、東南アジア、アフリカ)、(4)戦後アメリカ国内における断種実践、黒人貧困層を対象とした南部社会における福祉施策、など4つを設定した。最終年度にあたる平成30年度は、これまでの四年間の研究成果を総括することに取り組み、また、3月にはワシントンの議会図書館、国立公文書館、ホロコースト記念博物館アーカイブ等で、さらなる史資料の収集およびデータ収集を行った。 本科研課題の中心テーマであるアメリカの優生断種の実践がいかに社会に根深く広まり、国境を超えて拡散していたかについて新史料を入手し検証する道筋がつけられたことが最大の成果である。本課題の成果刊行の第一弾としては、Edwin Black, War against the Weak : Eugenics and America's Campaign to Create a Master Race, Expanded Edition (2012)増補版を2019年度に人文書院から刊行することが決定した。訳業以外にも、日本語でのアメリカ優生学運動のグローバル・ヒストリーに関する成果刊行を目指していく。また、今後の課題として残ったのは、日本での旧優生保護法下における強制不妊手術の実態が科研に取り組んだ五年間のうちに続々と明らかになり、日本現代史やジェンダー史の重要なテーマになったことから、これらのさらなる研究調査が必須のものとなった。日本史研究者との共同研究を含めて、この日本での展開が、二〇世紀初頭以来の米国の優生断種実践の系譜、GHQ占領下の米国の政策立案といかに関わっていたのか、次なる課題としたい。
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