研究課題/領域番号 |
26370856
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
皆川 卓 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (90456492)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 帝国イタリア / カスティリオーネ / コムーネ / 帝国宮内法院 / 軍税 / パルマ=ピアチェンツァ / ホーエンローエ / クライスアソシアツィオン |
研究実績の概要 |
H26年度は当初の計画通り、イタリア帝国封諸国(神聖ローマ皇帝と主従関係を結ぶイタリア諸国)における占領の実態と、それが各国の外交権確立に対して及ぼした影響を、地域史研究の渉猟および入手済みの一次史料の解読・整理を通じて分析した。具体的には当初の計画通りアウクスブルク同盟戦争(1689-98)およびスペイン継承戦争(1701-14)の占領期間における占領軍、君主、国内貴族および自治都市・村落(コムーネ)の間の交渉を、租税問題に焦点を当てて検討した。これらの事例研究のうち、H26年度中に史料解読が終了し、結論を出したのは、ゴンザーガ諸侯国の一つカスティリオーネ侯国についてである。皇帝の封国であった当該国では、アウクスブルク同盟戦争開始当時、君主カスティリオーネ侯とコムーネが紛争状態にあり、封建関係を根拠として神聖ローマ皇帝の裁判所「帝国宮内法院」による裁判が行われていた。そうした中で皇帝の兵站基地として占領が開始されたため、占領は主権の侵害と見なされることを免れる。更に訴訟戦略の一環として外交権の行使(フランスとの同盟)を示唆する君主に対し、コムーネは逆に皇帝を自らの上級君主と認め、進んで軍税を拠出した。皇帝もそれに応じてコムーネへの直接課税・直接統治を展開し、それを背景に同国を自領ミラノ公国の総督統治下とし、その外交権を抹消することに成功する。つまり本件は、社団の国家的アイデンティティが未成熟な段階で、形式的な上級君主にすぎない皇帝が占領を通じて社団のロヤリティを自らに導き、孤立した君主を排除してその外交権を否定した例であり、皇帝との伝統的封建関係が作用する神聖ローマ帝国では、占領が社団のアイデンティティに作用して所属国の外交権の成否を決定しうるという研究者の仮説が正しいことを証明している。この成果はすでに共著の一部としてH27年度7月にミネルヴァ書房で刊行予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では外交権を失ったカスティリオーネ侯国のみならず、占領を契機として外交権を確立した例と考えられるパルマ=ピアチェンツァ公国の占領についても、H26年度中に史料収集し、分析も一定段階まで進める予定であったが、カスティリオーネの事例研究の完成を優先して研究を進めていたことと、H26年度の後半期に長期の研究専従期間が得られなかったため、エフォートを時期的に均等配分するのが難しく、予定していたパルマ=ピアチェンツァ事例研究のための海外調査・史料収集を行うのに必要なまとまった時間が確保できなかった。そのため同国については、先行研究からなおアウトラインを把握しているに留まり、一次史料が示す占領時の諸社団の具体的な動きについては、解明しえていない。つまり研究の手順が一次史料の把握状況で前後しており、本来H27年度に行う予定の作業のうち、外交権喪失の構造については上記のカスティリオーネの研究ですでに達成されている一方、パルマ=ピアチェンツァを想定していた外交権の確立例については、史料の未入手のため実証研究に進まない状態に留まっている。またH27年度夏季以降の課題としている、ドイツ諸領邦における占領と外交権の関係については、すでに本研究の着想のベース研究を行ったH.カール(ギーセン大学教授)との情報交換に成功し、当初の計画にはなかった西南ドイツのホーエンローエ侯国が、三十年戦争中の占領の下で単独の外交権行使ではなく、帝国クライスを単位とした外交権の行使(クライスアソシアツィオン)へ導く例として、本科研の目的達成に有望であるという示唆を受け、これに関する先行研究の渉猟を始めている。したがって正確には研究の遅延ではなく、予定の史料収集ができなかったため、計画が前後しているというのが実情だが、H26年度に着手すべき作業に遅れが生じているのは事実である。
|
今後の研究の推進方策 |
H27年度夏季以前は地域史研究からの情報収集を通じて、占領下のパルマ=ピアチェンツァの状況把握を進めながら、当初の計画の手順に可能な限り近づけるべく、H26年度に予定されていたパルマ=ピアチェンツァ事例研究の史料収集のための渡航(予定は当初計画どおり)をH27年度夏季に行い、収集・解読を進める。併せてすでに着手しているドイツ諸領邦の事例研究も平行して実施する。史料収集に際しては、H.カールの示唆によりつつ、当初の対象事例であった諸領邦のうち一カ国を外し、代わりに有望とされる三十年戦争中のホーエンローエを調査対象とする。最終的な外交権の状況に鑑みて、目下ホーエンローエと類似しているヴュルテンベルクを外す予定だが、占領期の政治史料についても外交史料についても、ヴュルテンベルク・ホーエンローエ共にシュトゥットガルト国立文書館に保管されているため、当初から予定しているミュンヘン、マクデブルクと共に調査対象機関には変更はない。ただしカスティリオーネの例から、外交権確立の際には、各領邦の社団と領邦の封主である神聖ローマ皇帝の関係が決定的となりうることが明らかになったため、皇帝側の占領史料(皇帝・社団双方の交渉に関する軍税・軍政関連の史料)が必要になることが想定される。この件に関してはウィーン帝室宮廷国立文書館およびウィーン戦争文書館への照会が不可欠であり、回答によっては当該文書館での調査も実施したい。このドイツ・オーストリアでの調査は日程的に可能であれば、H27年度夏季の渡航を長期間(3週間~1ヶ月程度)に設定し、イタリアの調査と併せて行いたいが、現在の校務スケジュールでは必ずしも楽観できず、その場合にはドイツ(あるいはドイツ・オーストリア)の調査のみH27年度冬季に行う予定である。調査結果は史料解読の終了次第、整理して研究ノートにまとめ、学会報告等の形で発表する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
H26年度にイタリアのミラノ、パルマ及びマントヴァの国立文書館で予定していた史料調査を実施するのにまとまった時間が確保できず、その旅費を使用できなかったことにある。なお「現在までの達成度」で記したように、H26年度の調査計画の変更に伴って研究順序を入れ替えているにすぎないため、研究自体が大幅に遅れることはない。したがってH26年度に予定した他の支出項目についても、この変更により支出が若干少なめにはなっているものの、ほぼ計画通りに行われている。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究順序の変更の結果、H26年度に実施できなかったイタリアでの史料調査を、本年度ドイツで予定されている史料調査と共にH27年度中に実施する。この二つの調査については、調査期間を長めに(3週間以上)取り、ドイツの史料調査(10日程度)と併せて一回の渡航で行うか、それとは別に単独で予定通りの期間で行うかは、校務のスケジュールとの兼ね合いで可能な方を選択する。前者で可能な時期はほぼ8月後半~9月前半(免許法更新講習と教育実習の中間期)に限られるが、それが不可能であればこの時期に予定していたドイツでの調査を1月末~2月初旬に繰り下げ、8月後半にイタリアでの史料調査のみ実施する。なお研究順序の変更により研究のペースは全体として維持されているため、H27年に予定した他の支出項目については計画通りに支出する予定である。
|